泰生ポーチ
入居者ファイル#10
加藤 甫さん(フォトグラファー)

2019.07.19 泰生ポーチ

「泰有社」物件に魅せられた人々を紹介する「入居者ファイル」シリーズ。
今回は泰生ポーチに拠点をおくフォトグラファーの加藤 甫さんにご登場いただきます。

 

 

バンドのツアーからアートプロジェクトまで――「旅感覚」の延長にあったカメラマンの仕事

 普段から横浜や東京だけでなく、千葉や茨城など全国各地へと撮影に行く。スケジュールが合えばフットワーク軽くどこへでも出かけていく加藤甫さんは、横浜の媒体がなかなか予定を押さえられないほど、各地からのラブコールが絶えないカメラマンだ。

生まれも育ちも横浜の加藤さん。この数年は横浜を拠点に活動しているものの、これまで南は四国から北は北海道まで、各地のプロジェクトに関わってきた。

「香川、北海道、尾道(広島)、松戸(千葉)や守谷(茨城)など、あらゆる地域で撮影をしてきましたね。香川では、アーティストの鎌田友介と佐々瞬に同行して、現地プロジェクトのコーディネートも担っていたんです。それがきっかけで、北海道で展開している『アーティストインスクール』のプロジェクトなどに、撮影兼スタッフで呼ばれるようになりました」

さらに高校時代にはインディーズバンドのマネージャーをしていたという、驚きのエピソードも。

「メジャーを目指して高校を辞めた同級生と一緒に、全国ツアーについて行って、チケットをさばいたりグッズを売ったりしていたんですよ。もともと旅が好きなので、バンドのツアーも旅感覚でした」

 

ヴィジュアル系にお笑いの要素を融合したようなスタイルだったそのバンドは、後に事務所がつき見事メジャーデビューを果たす。加藤さんいわく「ゴールデンボンバーの流れを作った」ほどのバンドだったという。だがバンドに事務所がついたタイミングで、加藤さんは「美学校」へと進む。これが現在へと続く、写真の道へのはじめの一歩だった。美学校では写真家の西村陽一郎さんのもとで、写真を学んだ。

「ひたすら暗室作業をしていました。自宅に暗室を作って、モノクロのプリントを見てもらっていましたね。1年間ぐらい経って、そろそろスタジオに入ってお金を稼ぎながら勉強しようかなと思い先生に相談に行くと、『スタジオは勧めないな』と言われて」

「バンドスタッフをやっていたならできるだろう」という理由から、西村さんのアシスタントをすることになった。しばらくはアシスタントと並行しつつ、各地のプロジェクトを渡り歩くカメラマンとしての生活が、ここから転がり始めていく。

 

 

横浜に戻ってきた感覚――旧劇場からYCC、そして泰生ポーチへ

「ずっと住所は横浜ですが、シェアスタジオが都内だったり、年間100日間も北海道に行ったりしていた時期もありました。でも『旧劇場』を立ち上げて結婚したぐらいのタイミングで、横浜に戻ってきた感覚はありましたね」と加藤さんは話す。

もともとハンマーヘッドスタジオ「新・港区」に入居していた、若手建築家やアーティスト、ライターなどの数名が新たに立ち上げたのが、黄金町の「旧劇場」だ。元ストリップ劇場だった場所を改装したこの共同スタジオは、後に横浜のクリエイター界隈によく知られる場所となる。

「ほかのメンバーはハンマーヘッドスタジオからの流れでしたが、僕だけ鎌田に誘われて参加しました。『仕事場』としてはあまり使っていませんでしたが、ライブイベントなどの企画をする活動拠点としては、面白いことができました。そこに居たことで、旧劇場のカメラマンとして覚えてもらえるようになったことも、横浜で仕事をするうえではすごく意味がありましたね」

 

3 児の父でもある加藤さん。子どもの成長とともに「仕事場」に求めるものも変わっていったという。泰生ポーチの今 の仕事場には、レンズの保管庫やフィルムなどの仕事道具が並ぶ

カメラマンとしての「仕事場」を探していた加藤さんは、旧劇場で一緒だった建築設計加藤住吉が設計した「YCC ヨコハマ創造都市センター」のシェアオフィスに、その後デスクを置くことになる。

「YCCには2~3年いました。展示やイベントをやっていたり、デスク仲間との交流もあったりと楽しく過ごしていたんですが、夜の22時に閉まってしまうことと、機材置き場がなかったことがネックだったんです」

そのような中で、空室が出た泰生ポーチへの入居を決めた。一人で使い始めるには家賃もお手頃な泰生ポーチだが、入居してみた実感を聞いてみると「使い勝手は完璧」だという。

「近所の新井ビルや泰生ビルに、知人のアーティストや建築家、仕事をご一緒している人たちがたくさん居ます。泰生ポーチの隣の喫煙所でたばこを吸っていたら、『2年前のあのイベントの写真ない? 今日ちょっと見せたい人が来るんだよね』と声をかけられたことも。メールするまでもないコミュニケーションが自然と生まれるエリアですね」

撮影の現場では、カメラマンの枠を超えた視点でコミットする。加藤さんならではのスタイルは、バンドスタッフや、アートプロジェクトのコーディネートもこなしてきたこれまでの経験があってこそ。そのセンスに魅せられた人たちが、カメラを携えた加藤さんを、今日も旅へと連れ出している。

長年関わっている松戸のアーティストインレジデンス「PARADISE AIR」でのポートレートプロジェクト。ショートス テイのアーティストを、ポートレート 1 枚でドキュメントする。できるだけ「客観的」に撮ろうと、2019 年から撮影 そのものがイベント的になる木製の大判カメラでの撮影を再開した

知人や友人が行き交う、泰生ポーチ横の喫煙所。向かいには泰生ビルが、その横には新井ビルがある

 

 

 

 


PROFILE
加藤甫(かとう・はじめ)/1984年神奈川県生まれ。美学校写真工房修了。写真家西村陽一郎氏に師事。独立前より各地のアートプロジェクトのドキュメント撮影を住み込みで行う。現在はさまざまな媒体での撮影のほか、アートプロジェクトやアーティスト、ミュージシャンのドキュメント撮影を各地で行っている。

 

取材・文:及位友美/写真:松本祥孝

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