トキワビル

入居者ファイル#17

加藤健輔さん(株式会社ブリッヂ)

2021.01.20 トキワビル/シンコービル

「泰有社」物件に魅せられた人々を紹介する「入居者ファイル」シリーズ。今回は、トキワビルに撮影スタジオを兼ねたオフィスを構える、株式会社ブリッヂの加藤健輔(かとう・けんすけ)さんにご登場いただきます。

 


 

誰もが一度は利用したことのあるGoogleストリートビューや、コロナ禍でより身近になったVR(ヴァーチャル・リアリティ)コンテンツ。こうしたサービスを手がけるのが、トキワビルに入居する株式会社ブリッヂだ。

YCC ヨコハマ創造都市センターのカフェやイベントスペースを360度でわかりやすく紹介するVRコンテンツ。

 

Googleの仕事から飛び込んだ360度撮影の世界

サービスの軸は、店舗や施設などを撮影する室内版のGoogleストリートビュー「インドアビュー」と、360度映像に動画やテキストを加えて施設やイベントを紹介する「オーダーメイドVR」の2つ。代表取締役の加藤健輔さんは、パートナーである清野智恵さんとともに、各地での撮影からコンテンツの制作まで幅広い業務をこなしている。

学校などで写真を専門に学んだ経験はなく、前職は営業だったという加藤さん。2010年、偶然目にした求人から参加することになったのが、当時スタートしたばかりの「Googleおみせフォト(室内版ストリートビュー)」プロジェクトだった。その後は3000以上の店舗で撮影を行い、別のプロジェクトへの移動の打診を受けたタイミングでGoogleとの契約を終了。現場での経験を生かして、2013年11月に株式会社ブリッヂを設立した。

撮影機材が並ぶオフィス。キッチンカウンターは一枚ずつ板を貼り付けてDIYをした。

「ずっと横浜で暮らしてきたので、会社をやるなら横浜でという思いがありました」と語る加藤さん。はじめは関内の扇町にシェアオフィスを借りたが、横のつながりがある場を求め、YCC ヨコハマ創造都市センター、THE BAYSのシェアオフィスを転々とした。

そして2020年5月、トキワビルに入居。建築家の友人に手伝ってもらいながらDIYしたという部屋は、鮮やかなスカイブルーの壁や、板の風合いを残したダイニングキッチンが印象的だ。「ここはスタジオも兼ねたオフィスにしようと思い、いろいろな機材を置いています。まだ制作方法などの認知度が低い360度の写真・映像についてレクチャーする動画を、これからYouTubeチャンネルにアップしていこうと考えています」。

奥のスペースは清野さんたっての希望で芝生張りに。冬はこたつ仕様になっている。

 

コロナ禍で注目を集めるVR

新型コロナの流行で新たなスタンダードとなったのが、オンラインの展示やイベントだ。加藤さんのもとにも、緊急事態宣言明けに問い合わせが急増。以前から撮影していた店舗や施設に加え、新入社員採用の際にオンラインで現場の見学を行うために使いたいという自治体からの依頼や、所有する建物のアートイベントの記録・発信をしたいという依頼があった。

360度写真は、一眼レフカメラで一枚ずつ撮影した写真をつなぎあわせ、3Dで編集して制作するという。加藤さんは「できあがりをその場でクライアントに見せられないので、現場でイメージをすり合わせるのが大事です。その後の編集にもひと手間かかるので、やはり撮影・編集が一番大変ですね」と話す。

ブリッヂで使用している360度カメラ。こちらは主に映像の撮影に使用する。

「最近よくVRと聞きますが、どこからをVRと呼ぶの?という感じですよね」と加藤さん。「360度の写真を撮って、ぐるっと見られるようにするだけなら簡単です。でも、そこにポップアップで説明や動画を表示したり、バーチャルツアーとして移動できるようにしたりすると、VR専用のシステムで制作する必要が出てきます。ブリッヂでは、外部のエンジニアとも協力しながら、リンクするコンテンツの内容やデザインも含めたディレクションを行っています」。

 

「残す」ことで人の心に寄り添う

日本各地で撮影を行う加藤さんだが、これまでで一番心に残っている仕事があるという。それが、東日本大震災で失われた街の風景を集めるGoogleの「未来へのキオク」プロジェクト(https://www.miraikioku.com/)だ。現在も継続中で、「キオク」の総数は4万8,694(2020年12月時点)にのぼる。

加藤さんが参加したのは2013年頃。福島第一原発に近い場所では防護服を身に着け、震災後ほぼ誰も入ったことのない町並みや学校、市役所などをたった一人で回った。なかでも印象的だったのは、街全体が浸水し、甚大な被害があった石巻の漁港。地元の漁師さんたちと話しながら、取り壊さなければならない建物を撮影した。

「生まれたときからこの家で育って、震災で壊すことになってしまったけれど、こうやって360度で残っていつでも見ることができるのは嬉しいです、と言ってもらえて。たんなるお店のプロモーションだけではなく、残すという意味でも360度写真は使ってもらえるんだ、アーカイブとして人の心に寄り添うコンテンツがつくれるんだと、そのときに感じました」

 

進歩を続ける業界の今後

「みんなで一緒に笑い合う」というビジョンのもと活動するブリッヂ。VR業界は急激な進歩を続けているが、今後はどのような展望を抱いているのだろうか。

あまり触れる機会のないVRだが、加藤さんは「かぶってみればすごさがわかります」という。Oculusなどのデバイスは今年に入って価格が下がり、ゲームなどの用途で多くの人の手に渡っている。コントローラーを持たなくても手を認識したり、カメラが認識する範囲で動けば自分の体が動いたりと、使い方次第でさまざまな可能性がある。

手に持っているのがVRヘッドセット・デバイスのOculus。Facebookの子会社が開発している。

また、プラネタリウムのような360度のプロジェクションなど、新たな技術も試してみたいと語る。「映像が今後行き着く先は、バーチャルや3D空間での体験ではないでしょうか。新しいものは試してみて、まずは少しずつ360度撮影やVRに対する認知を上げていきたいですね。業界を盛り上げながら、これからも自分のペースでやっていければ」。技術の進歩にあわせて、どんな景色が見えてくるのか楽しみだ。

 


PROFILE
加藤健輔[かとう・けんすけ]
株式会社ブリッヂ代表取締役。2010年にフォトグラファーとしてGoogleに参画し、Googleマップ インドアビュー(Googleおみせフォト)プロジェクトに創成期から参加。ストリートビュー認定パートナー制度の立ち上げに携わった後、国内初のGoogle認定フォトグラファーとなり、2013年に株式会社ブリッヂを設立。横浜を拠点に、地域を主体としたストリートビューや360度映像、VRコンテンツの制作を行っている。BBT大学 Tourism Leaders School講師。

 

取材・文:白尾芽(voids)
写真:大野隆介

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