泰生ポーチ
入居者ファイル#23(前編)
三浦佑介さん(design office shubidua)・佐藤恵美さん

2021.08.18 泰生ポーチ

「泰有社」物件に魅せられた人々を紹介する「入居者ファイル」シリーズ。今回は、泰生ポーチの301号室をシェアする4人のクリエイターに取材。前編と後編に分けてお届けします。前編では、三浦佑介(みうら・ゆうすけ)さん・佐藤恵美(さとう・えみ)さんにご登場いただきます。

 
グラフィックデザイナー、編集者・ライター、アートディレクター・書家、施工会社――。泰生ポーチ301号室には、まったく異なる業種の4人が集まっている。泰有社ビルのなかでも、めずらしい部屋と言えるかもしれない。グラフィックデザイナーで「design office shubidua(シュビドゥア)」主宰・三浦佑介さんが声をかけたのをきっかけに、シェアオフィスとしてスタートしたという。今回は三浦さんと、編集者・ライターの佐藤恵美さんにお話を聞いた。

 

ひとこと交わせる距離感が心地よい。個が集まるシェアオフィス

三浦さん、佐藤さんを含む4人が泰生ポーチに入居したのは、2019年の8月だった。この4人のつながりは、「YCCヨコハマ創造都市センター(以下、YCC)」の2階にあった会員制のコワーキングスペース「キャンバス」での出会いにさかのぼる。しかし同スペースの運営が2020年3月に終了。それにともなって新たなスペースを探し出した。

「泰生ポーチに入居していたカメラマンの加藤甫さんや、トキワビルに入居している大谷薫子さん(本のモ・クシュラ)と知り合いで。相談すると、泰有社さんを紹介してもらったので内見に行きました」と話す三浦さん。301号室に空きがあることを知り、ひとりで使用することも考えた。だが「みんなで一緒に使ってワイワイできたら楽しいかも」と思いたち、シェアオフィスにすることに。佐藤さんも「フリーランスだと、どうしても会話が少なくて。『今日は暑いね』ってひとことでも話す人がいると安心します」とうなずく。

奥から三浦さん、佐藤さんの席。それぞれ仕事の都合によって事務所の滞在日も異なり、コロナ禍でも「ちょうどいい距離感」になるという

横浜・関内で仕事をしていくなかで、横のつながりも増えてきた。三浦さんはYCCを運営していたオフソサエティ株式会社と今年から仕事をするなど、新しい出会いも多い。「横のつながりを求めてきたわけではありませんでしたが、結果的につながりが増えた感じで。ありがたいですね」。

 

真剣に遊ぶことで生まれるデザイン[グラフフィックデザイナー/三浦佑介さん{design office shubidua(シュビドゥア)主宰}]

子どものころから絵を描くのが好きだった三浦さん。大学ではデザインを学ぼうと、静岡文化芸術大学に進学。デザインの授業はあったものの、グラフィックデザイン専門の学科はなかった。そこで三浦さんは、数人の仲間とともにビジュアルデザインサークルを設立。「大学には、『デザイン学部』のほかに、文化政策やアートマネジメントを学ぶ『文化政策学部』があるんです。デザイン以外の分野を学んでいる生徒にも積極的に声をかけて、サークルの可能性を増やしていきました。総勢で30人以上のサークルになりましたね」。サークルでは、浜松市の魅力を街なかでアピールするポスター展の企画制作や運営をしたり、お店の名刺やイベントのフライヤーをつくったりと、デザイン実務に励んだ。そんなサークル活動が、現在の仕事力にもつながっている。

三浦佑介さん

卒業後は広告会社で働き、28歳で独立。「design office shubidua」を設立した。独立したてのころは、自身の仕事とは別に制作会社の短期派遣をしていた時期もあった。「なんでも楽しめる性格」の三浦さん、そういった経験も「それぞれの制作会社の手法を知る機会になりました」と笑う。そんなポジティブかつ課題解決型の三浦さんは、泰有社コミュニティにとっても欠かせないキャラクターのひとりだ。ワンフロアでトイレを共有する泰生ポーチでは、その使い方にもちょっとした共通認識が求められる。三浦さんが入居者として自主的につくったというイラストボードは、泰生ポーチでのトイレの使い方が一目でわかるもの。「こういうのを凝るのが好きなんです。どんな仕事も自分にとっては真剣な遊び。これを見てクスッと笑ってもらえたら」。

イラストを含むデザインを全て三浦さんが仕上げた

これまでに手がけた仕事のなかで、もっとも印象に残っているのは、現代美術作家の大巻伸嗣さんのカタログデザインだったと話す三浦さん。大巻さんは、高校時代に通っていた美術研究所の先生だった。「大巻さんの授業でつくった作品で、最優秀賞をいただいて。それがきっかけでデザインに興味をもつようになったんです。大学生になってから大巻さんに再会したときに、『プロのデザイナーになって、先生の名刺をデザインしたい』って宣言しましたね」。独立して数年後、大巻さんからカタログデザインを依頼された。以降、名刺のデザインも実現したという。「独立してすぐに甘えてこないよう、しばらく様子を見ていてくれたようです」と三浦さん。ふたりの信頼関係を感じるエピソードだ。

『SHINJI OHMAKI 大巻伸嗣』(現代企画室、2016)*

 

美術館から医療・福祉まで──多様なアートとの関係[編集者・ライター/佐藤恵美さん]

大学では建築の勉強をしていたという佐藤さん。就職活動中に、研究室の教授から「おもしろい編集者がいる」と紹介された人がいる。卒業して数年後、縁がありその編集者がいた会社へ入社。編集・ライター業の世界に足を踏み入れた。はじめの頃に携わった木造建築専雑誌の立ち上げや陶芸雑誌を通して、編集者の醍醐味を知る。

編集・ライター業とは別に、金沢21世紀美術館で学芸アシスタントの経験もある。「学芸員資格をもっているのですが、美術系の仕事にはなかなか出会えなくて。美術にかかわる仕事をしたい思いは、ずっとありますね。それがいまの仕事につながっています」。2012年に独立してからは、『第2回金沢・世界工芸トリエンナーレ 工芸におけるリージョナルなもの』のカタログ制作などにも、編集として携わった。

佐藤恵美さん

会社に勤めて編集の仕事をはじめるまでは、「編集のへの字も知らなかった」と佐藤さんは話す。だがフリーランスになったいまでも、多くの媒体で精力的に編集と執筆を担当している。「数年前に担当していた、『日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS』が運営するWebメディアとフリーペーパー制作の経験は、いま振り返るととても大きかったです。スキルの面でも勉強になりましたが、福祉施設など取材先で出会った人たちの生き方を見て、考え方が大きく変わりました」。

佐藤さんはそのほかにも、アートプロジェクト関連書籍の編集を多く手がける。写真は『これからの文化を「10年単位」で語るために ―東京アートポイント計画 2009-2018―』アーツカウンシル東京、2019)*

佐藤さんの本棚には、工夫を凝らした装丁の一冊がある。世田谷区にある就労継続支援B型事業所「ハーモニー」が制作した「超・妄想幻聴かるた」という“本とかるた”だ。佐藤さんが編集者のひとりとしてかかわった本書。かるたは、幻覚や妄想を日常的に体験しているハーモニーのメンバーたちが、その経験をイラストとテキストでつづったもの。「生きづらさ」について考えさせられる。同封の本には、同施設長の新澤克憲さんによる解説や、写真家・齋藤陽道さんがハーモニーの日常を撮り下ろした写真などが掲載されている。

新澤克憲+就労継続支援B型事業所ハーモニー『超・幻聴妄想かるた』 (特定非営利活動法人やっとこ、2018)

 

デザインとライティングに通じる、伝えることの難しさ

三浦さんは、グラフィックデザイナーの仕事のかたわら、音声配信プラットホーム「stand.fm」にて不定期で毎回5分程度のラジオを配信している。「グラフィックデザインの価値って、じつはあまり知られていないと思うんです。仕事だけでなく、ラジオという媒体をとおして自分の思っていることを発信できたらと」。2021年8月で1周年を迎える三浦さん発信のラジオ。パリ在住のファッションデザイナーなどクリエイターとのコラボ配信もあり、デザインを知らない人も聴いている。「誰にでもわかるように話すことを意識しています。これはデザインにも通じる考え方ですね」。

佐藤さんと同じく、三浦さんも以前から興味をもっていたアートにまつわる仕事も増えてきた。「芸術分野は自分が育てられた場所。自分のデザインが何か力になれたら嬉しいです」。

同い年の三浦さんと佐藤さんは、301号室のなかで若手組。取材中もお互いのことを詳しく話してくれた

編集者・ライターとして、不特定多数の人が読む記事を手がけてきた佐藤さんも、公共性を意識し、誰にでもわかりやすい言葉で伝えることを大事にしているという。「一緒に体験して楽しかったことやおもしろかったことを中心に伝えていけたら」。お話のはしばしに、編集者としてのスキルが垣間見られた。

グラフィックデザイナーと編集者。異なる業種ではあるものの、”伝える”ことについての考え方には共通点がある。シェアオフィスならではの対話に、今後、おふたりのコラボレーションの機会があれば見てみたい――。そんな期待を感じたインタビューだった。

 


PROFILE
三浦佑介[みうら・ゆうすけ]
グラフィックデザインを軸とした“人の想いをカタチにする”コミュニケーションワークを行う。得意分野はCI&VI設計。
主な仕事は、一般社団法人横浜みなとみらい21「横浜・みなとみらいの夏/冬」のプロモーションデザイン、市原湖畔美術館の企画展「雲巻雲舒―現代中国美術展・紙」のグラフィックデザイン、現代企画室「SHINJI OHMAKI」のブックデザイン、株式会社北欧トーキョー「HOKUO the Garden」のロゴタイプ、株式会社MCアグリアライアンス「STEADY Nut & Fruit」パッケージデザイン、ナチュラル ローソンの企画パッケージデザインなど。

佐藤恵美[さとう・えみ]
アートやデザインなどの分野で編集者・ライターとして従事する。2019年より筑波大学附属病院のアートコーディネーターも兼務。美術館、編集事務所、アートセンター等を経て、現在フリーランス。近年編集に関わった本に『札幌国際芸術祭記録集「SIAF2020インデックス」』『アートプロジェクトのピアレビュー: 対話と支え合いの評価手法』『パーラー公民館の3年間 2017-2019』など。ウェブマガジン『Begin for Good Life』にて「アートをかける冒険」連載中。

 

取材・文:中村元哉(voids)
写真:大野隆介(*をのぞく)

その他泰生ポーチについてはこちらから

>