泰生ビル
入居者ファイル#31
伊早坂遥さん(トビラ株式会社)

2022.05.27 泰生ビル

「泰有社」物件に魅せられた人々を紹介する「入居者ファイル」シリーズ。今回は、泰生ビル1階にカフェ「I’m home」を構え、3階にもシェアスタジオ・倉庫をもつトビラ株式会社の伊早坂遥(いはやさか・はるか)さんにご登場いただきます。

 

第三者的な視点からまちに関わる

関内桜通りに面した泰生ビルの1階、BankART homeの跡地に新たなカフェ「I’m home」がオープンしているのをご存知だろうか。お店を運営しているのは、伊早坂遥さんが代表を務めるトビラ株式会社。川崎と横浜の2拠点で、主にイベントの企画・施工・運営・デザインなどを行っている。今回は伊早坂さんに、まちづくりに関わるご自身の関心や仕事の内容について聞いた。

泰生ビルの1階、「I’m home」の外観

伊早坂さんは、多くの人から「シチューさん」の愛称で親しまれている。高校生の頃、金髪に白色のカーディガンを着ていて、色味がシチューのようだったことから付いたあだ名なんだとか。横浜で生まれ育ったが、川崎に住みはじめたことをきっかけに、武蔵小杉・武蔵新城エリアの活動にも関わっている。現在はトビラ株式会社代表のほか、武蔵小杉エリアプラットフォーム、一般社団法人武蔵小杉エリアマネジメントの理事、かわさきFM「かわさきショウタイム コスギスイッチON!」番組プロデューサーと、さまざまな肩書を持つ。

トビラ株式会社はもともと、武蔵新城に複数の物件を持ち、マンションの1階を店舗にするなど積極的にまちづくりにを行ってきた大家さんが3〜4年前に立ち上げた会社。1年ほど前に代替わりをし、役員だった伊早坂さんが会社とブックカフェ「Book&Cafe stand Shinjo Gekijo」を引き継いだ。「個人で武蔵小杉周辺に関わって8年ほどになります。とくに駅前は、タワーマンションに住む人、地域の町内会の人、お店などの商業をやっている人が交錯する場所。第三者的な立場から盆踊りなどイベントの企画・制作を行い、会社の機材や技術も活かしています。武蔵新城のブックカフェも置く本やメニューの見せ方を変えていき、おかげさまで毎週末満席の、地域に愛されるお店になりました」。

武蔵新城の「Book&Cafe stand Shinjo Gekijo」*

まちづくりに関わる伊早坂さんだが、意外なことに前職はフランス料理のシェフ。専門学校などを経ずにレストランで修行を積み、一部門を任されるまでになった。しかし、他に興味のある仕事と並行して進めるのが難しかったため、ある時点で退職することに。「それからは、周囲に求められることに応えていたら自然とこの仕事をしていました。ラジオのプロデューサーも経験があったわけではなくて、武蔵小杉で仕事をしたいというMCの方に相談を受け、ラジオというアプローチを取ることにしたというだけなんです」。

 

音楽と芸術が身近にある関内へ

トビラ株式会社が泰生ビルに入居したのは、ちょうど1年ほど前のこと。イベント用の機材を置くスペースを探していたところ、伊早坂さんと公私ともに親交のあるトキワビルの建築設計・デザイン事務所「CHA」の原﨑寛明さん、星野千絵さんに泰有社の紹介を受けたのがきっかけだった。部屋をいくつか内覧し、エレベーターのある泰生ビルの3階をシェアスタジオ・倉庫として借りることに。その後ちょうどBankART homeが退去し、当初のプランにはなかったが、路面店も借りることに決めたのだという。

照明や店内の装飾品は、伊早坂さんやスタッフが少しずつ買い集めているのだとか

店内は、本棚やバーカウンターなどはそのままに、昼は作業もしやすいカフェとして、夜はムードのあるバーとして楽しめる空間が特徴。星野さんに「Shinjo Gekijo」の設計をお願いしていたこともあり、今回の改装もCHAの2人の協力を得た。コロナ禍の短縮営業が続くなかで、DIYをしながら少しずつ調度を揃えている。

なかでも目を引くのは、ドラムセットなどの楽器とアート作品。伊早坂さんには音楽関係の友人も多く、時折バイオリンやピアノの生演奏も行われている。「コロナが長引いて静かになってしまいましたが、関内エリアは角を曲がったら音が鳴っていたり、展覧会をやっていたりするのが日常だったと思います。そんな環境に早く戻っていったらいいですね」。店内にはピクチャーレールも設置し、今後は写真や絵画の展示も開催する予定だ。

ピアノの上にあるのは、知人のアーティストから預かったという彫刻作品

 

血の通ったプロジェクトをしたい

伊早坂さんは、個人としても会社としても、それまで培ってきたスキルを活かして地域にコミットする活動を続けてきた。トビラ株式会社では、商業施設の周年イベントやキャンペーン、地域の盆踊り、ハロウィンイベント、ハンドメイドマルシェ、オンラインセミナーの配信などさまざまなイベントを手がけている。プロジェクトごとに外部のパートナーとチームを組み、計画から予算管理、安全面のサポート、機材レンタルや撮影までをワンストップで行うのが大きな特徴だ。

プロジェクトのなかでも印象に残っているというのが、2017年のクリスマス、東急電鉄90周年記念事業として行われた武蔵小杉駅前のイルミネーション。無機的な駅前の広場に、有機的な流木でキリンの姿をかたどったオブジェを出現させた。「エリアマネジメントに関わっていることもあり、まちのあり方そのものを考えていました。再開発でタワーマンションが増えつづけ、電車のホームには人が溢れている。まちの住民が何を選び、これからどう進んでいくのかが重要な過渡期だと思いました。そんなとき、建設現場で夕日に照らされたクレーンがキリンのように見えました」。「現れたキリンたちはどこへ行くのか? あなたはここから、どこへ行きますか?」と問うストーリー仕立ての冊子や、元々工場地帯だったところから再開発が始まったまちの歴史についての展示も行った。

2017年に武蔵小杉駅前で行われたイルミネーション。キリンは流木でつくられている*

また、最近は武蔵小杉駅前での社会実験にも関わっている。駅前の道路を中心に課題を解決し、新たな仕組みを整えていく長期的な取り組みだ。ここには道路だけでなく、まち全体の活用に関わる課題が含まれている。「武蔵小杉の駅前には大きくない広場が点在していて、人口にあわせたイベントのためには複数の場所を面として使う必要があります。ただ場所によって管理者やルールが違うので、どうしたら利用しやすくできるか、安全に使えるかの検討のためにも社会実験を行いました。立体的にまちを活用する仕組みづくりに協力したいと考えています」。現在も再開発が進む武蔵小杉では、コロナ禍の影響もあってお祭りや盆踊りの多くが中断している。「地域のお祭や盆踊りも、何10年と続いたら文化になるはず。タワーマンションに住む子どもたちにも、ふるさとの思い出をつくりたい」と、環境の整備と文化の継承を続けている。

こうした仕事の根底にあるのは、地域に発表の場を持ちたいと考えている人たちの声を聞き、安全管理や施工、運営の面を固めて並走することを大切にしたいという思い。「プロではない地域の人と協働するからこそ手づくり感が出て、それが喜ばれるときもあります。商業的な仕事であっても、そこにストーリーや意義を見出すことで、“やって終わり”にならない血の通ったプロジェクトができると考えています」。

「関内エリアでは交流会なども多いと聞いていましたが、まだ地域のみなさんにご挨拶とお披露目ができていない状況でした。これからはイベントのサポートや、断絶しそうになっているお祭りなどがあればぜひお手伝いしたいです」と伊早坂さん。短縮営業を続けていた関内のカフェ「I’m home」は、4月29日にフル営業でオープン。夜はアルコールもありでオープンし、ライブなどのイベントも行っていく。コーヒーブレイクや仕事帰りの一杯に、ぜひ立ち寄ってみてほしい。

 
I’m home
営業時間:火~土 12:00~22:00 L.O/日 12:00~18:00
定休日:月・年末年始

 


PROFILE
伊早坂遥[いはやさか・はるか]
通称シチュー。トビラ株式会社代表取締役、NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント理事、一般社団法人武蔵小杉エリアマネジメント理事、こすぎコアパーク管理運営協議会理事、NPO法人はたらくらす理事、JYU理事ほか。多数の実行委員会やプロジェクトに参画。画家のマネジメントやアニソンの生演奏イベントなど、会社外でも年間を通して多数制作。趣味は散歩、読書、コーヒー。

 

取材・文:白尾芽(voids)
写真:大野隆介(*をのぞく)

その他泰生ビルについてはこちらから

>