街の未来を考える、クリエイターたちの拠点紹介
vol.2(泰生ビル・泰生ポーチ編)

2021.05.12 泰生ビル 泰生ポーチ

イラスト(2点):株式会社オンデザインパートナーズ 大西未紗

 

私たちは不動産事業をとおして、コミュニティを育むまちづくりを目指しています。関内エリアに4棟、弘明寺エリアに3棟のビルを所有し、入居アーティスト/クリエイターとともにさまざまな活動に取り組んできました。本シリーズでは、私たちのビジョンや各拠点の特徴をお伝えしていきます。

 

アーティストやクリエイターの誘致に乗り出した、泰生ビル

ここ泰生ビルは、泰有社の「顔」とも呼ばれている。その歴史をすこしひもといてみよう。
初代・水谷欽一は、まちに対する嗅覚の鋭い人だった。創業当時、露店や闇市で活気のあった弘明寺エリアや、まだ埋め立ても進んでいなかった関内エリアに注目し、土地の購入に乗り出していた。
やがて個人経営だった事業を法人化し、株式会社泰有社が誕生。昭和42年に、泰生ビルを建設することになる。当時はまわりに大きなビルもなく、海の眺望がすばらしかったそうだ。当初から1階に飲食店、2階には事務所、そして3階以上は賃貸住宅として一般世帯が入居していた。

1967年に建設した第一号のビル。5階建て、計41部屋(2018年撮影)photo:加藤甫

初代が自社ビルとして建設した泰生ビルは、それから約50年後となる2010年代に転機を迎えた。アーティストやクリエイターの誘致をサポートする横浜市の施策とも連動したリノベーションに取り組み、アーティストやクリエイターの拠点としても知られるようになる。

なかでも、まちづくりやコミュニティビジネス、メディアの運営などで知られる横浜コミュニティデザイン・ラボが、シェアオフィスとコミュニティスペースからなる「さくらWORKS〈関内〉」をオープンしたことは大きな契機になった。ここで人が集まるさまざまなイベントが開催されるようになり、泰生ビルは横浜で活動するアーティストやクリエイターに親しまれるビルになったのだ。

オープン当初の「さくらWORKS〈関内〉」コミュニティスペース。2017年に惜しまれながらクローズした。nitehi worksなどアーティストの作品も、リノベーションの一部として取り込まれている(2011年撮影)

 

保育園からジャム工房まで――幅広い入居者が特徴

そんな泰生ビルの特徴は、アーティストやクリエイターにとどまらず、さまざまな業種の入居者がいることだ。
発達障害の高校生のための通信教育拠点「BAY1(明蓬館高等学校SNEC)」や、0~3歳児を受け入れる保育園「ピクニックナーサリー」、ジャム工房の「旅するコンフィチュール」、建築設計事務所の「株式会社オンデザインパートナーズ」、公共施設や地域のプロデュースなどに携わる「アカデミック・リソース・ガイド株式会社」をはじめ、デザイン事務所、NPO、アーティストらが多数入居している。
このように多彩な人たちが入居しはじめて10年、泰生ビルはまちに開かれた活動の軸となっている。

ジャム工房「旅するコンフィチュール」は2020年秋、泰生ポーチに店舗を移転オープンした photo:加藤甫

発達障害の高校生のための通信教育拠点、明蓬館高等学校SNECの教室「BAY1」。もともと泰生ビルに入居し、現在はトキワビルに入居する古市久美子建築設計事務所が内装を手掛けた(2019年撮影)photo:中川達彦

建築設計事務所・株式会社オンデザインパートナーズのオフィス空間(2018年撮影)

 

2つの緑化プロジェクト~屋上緑化「TAISEI GARDEN Project」、壁面緑化「KANNAI NIWA STAND」

まちとともに共存するビルだからこそ実現したのが、2つの緑化プロジェクトだ。

泰生ビルの屋上を緑化する「TAISEI GARDEN Project」は、2019年の夏ごろからgrobe株式会社の吉田健二さんが、ZASSO(雑草の中でも価値のあるもの)の特徴を活かした緑化計画を進め、実現した。私たちはこの場所を「まちにコミットする屋上」にしようと、2017年から緑化を試みてきたが、メンテナンスの難しさから、緑化のシステムそのものを見直すことに。このような経緯から「TAISEI GARDEN Project」が誕生した。

緑化された屋上は、ピクニックルームの子どもたちの園庭としても使われている。手の込んだメンテナンスが必要ない雑草は、屋上の再緑化に最適だった。ヨガの教室や親睦会にも屋上が使われることもあり、これからさらに活用されていくだろう。

泰生ビルの屋上で展開する緑化プロジェクトの「TAISEI GARDEN Project」(2019年撮影)photo:中川達彦

そしてもう一つの緑化プロジェクトが、泰生ビル1階の壁面を緑化した「KANNAI NIWA STAND」だ。企画・設計を担ったのは株式会社オンデザインパートナーズ。防火帯建築と呼ばれる戦後建築・泰生ビルの「歴史」に着目したオンデザインパートナーズは、その壁面に元からあった配管パイプや空調機などを生かし、新たに単管パイプと金網を設置。年月を経て植物が絡みながら成長し、「経年変化」を楽しむ緑化スポットを企画した。
本プロジェクトの緑化には、前述の吉田さんが植物の専門家として企画に携わり、アーティスト・秋山直子さんがアート作品の設置に関わっている。

泰生ビル1階の壁面緑化プロジェクト「KANNAI NIWA STAND」(2019年撮影)photo:中川達彦

 

入居者はアーティスト・クリエイターのみ。「small is better」が合言葉の泰生ポーチ

オフィスは必要だけど、大きい必要はない。そんな個人経営者や、スタートアップの中小企業にぴったりの創造拠点が、泰生ポーチだ。クリエイターや、アーティストの受け入れに手ごたえを得て2014年に購入し、泰生ビルでの手法をモデルに運営している。合言葉は「small is better」。1部屋あたりの面積も12~15㎡とコンパクトだ。
泰生ビルには、アーティストやクリエイターがオフィスやアトリエとして使う以外にも、一般の世帯が住居として入居していたが、この拠点の特徴は入居者がアーティスト・クリエイターしかいないこと。

「ポーチ」という名称には、向かいの「泰生ビル」の“玄関先”に建つ立地に由来するとともに、この場所を“創造都市横浜の入口”にしていこうという思いも込められている。

2015年4月オープンの泰生ポーチ。4階建て、計13部屋(2015年撮影)photo:株式会社オンデザインパートナーズ

創造拠点らしく、個性豊かな入居者が集まっている泰生ポーチ。コーヒーロースターとフードカメラマン、2つの肩書をもつ松本祥孝さんは、コーヒー豆の焙煎工房として一室を使っている。

本格的な焙煎機がある、松本祥孝さんの部屋(2019年撮影)photo:加藤甫

また松本さん以外にも、アーティストとしてポラロイドカメラで作品を発表する北村和孝さんなど、カメラにかかわる人の入居が目立つのも特徴だ。

その他の業種としては、まちづくり系のNPO、アートディレクターやグラフィックデザイナー、編集者などが入居する。

セルフリノベーションで壁を真っ黒に塗り、暗室兼アトリエの機能を兼ね備えた北村さんの部屋(2020年撮影)photo:加藤甫

 

1階スペースを「泰生ポーチ フロント」として活性化

関内桜通りに面した1階スペースは、オープン当初からカフェの営業やイベントスペース、入居者がミーティングなどに利用できるシェアスペースとして運営してきた。ここは以前、会員制のクラブだった場所。その面影を残す天井やシャンデリアをあえて再利用したリノベーションも、場に独特の質感を与えている。

現在は泰生ポーチフロントとして運営されている、泰生ポーチ1階。株式会社オンデザインパートナーズによるリノベーション。(2015年撮影)photo:加藤甫

オープン当初は地産地消レストランや、イベント空間などとして活用されてきた1階スペース。2018年夏からは「泰生ポーチ フロント」として、体制を新たにオープンした。柱となるのは、パン屋・学童保育・ソーシャルイベントの3事業だ。

最近はこの場所で、関内地区において「安心して集まれる、おいしい食事を提供できる」場所として企画された地域食堂の「さくらホームレストラン」を毎月第3水曜日の17時~19時にオープンしている。同エリアの町内会や、泰生ポーチ フロント実行委員会などの協力により実現している企画だ。さくらホームレストランでは、野菜や果物など食材品の無料配布を行う「フードパントリー」も、不定期で開催している。

「さくらホームレストラン」2021年4月からの予定

【泰生ポーチ フロントの活動】
・パン屋のオヤジ 火曜~金曜/8:00~14:00
運営:NPO法人ヒューマンフェローシップ(K2インターナショナルグループ)
根岸のコッペパン専門店「パン屋のオヤジ」の関内出張店舗としてオープン。

・ピクニックスクール 月曜~金曜/14:00~18:00
泰生ビル内「ピクニックナーサリー」と連動する形で、小学生放課後事業を展開。
運営:株式会社ピクニックルーム

・イベント事業・連携統括 平日/18:00~、土日
2017年にクローズした泰生ビルのコミュニティスペース機能を、フロントにて継続。
運営:NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ(さくらWORKS〈関内〉)

泰生ビルと泰生ポーチ。2つの拠点の特徴を紹介してきたが、ここには書ききれないたくさんの人たちが、それぞれ魅力的な活動を展開している。現在はコロナ禍で、開かれたイベントやオープンスタジオなどの機会が減ってはきているが、「さくらホームレストラン」などの機会にぜひ足を運んでいただきたい。

※本シリーズでは次回も、関内と弘明寺の各拠点の特徴に迫ります。お楽しみに!

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