泰生ビル
ピクニックルーム
地域の親子に安心を

2020.12.28 泰生ビル

泰生ビル5階の保育園「ピクニックナーサリー」が2017年11月に開所して丸3年。この度当初からの507号室に加えて502号室も改装し、2部屋に増床した。ビル内や関内エリアで子育てしながら働くクリエイターたちの拠り所となっている同園と、向かいの泰生ポーチ1階で開いている放課後児童学習支援事業「ピクニックスクール」、日本大通りのライフデザインラボで行っている子育てサロン「ママピクニック」の3つの事業を束ねる株式会社ピクニックルーム代表の後藤清子さんに、改めて歩みを振り返ってもらった。

 

関内エリアの子育てニーズを汲み取る

木のぬくもりを生かした部屋に通うのは、現在0歳〜3歳のあわせて12名の園児。その保護者のうち約半数が、近隣のデザイン会社などで働くクリエイターだ。

幼児がメインの507号室。内装は古市久美子さんとアーティストの椎橋良太さんが手がけた

自身ももともと映像などの制作プロデューサーとして関内を拠点に活動していた後藤さんの法人は、2012年に「さくらWORKS<関内>」に入居。その後、似て非worksメンバーと共に2015年度に子ども向けの舞台を手がけたことがきっかけで、初めて子どもに関わる事業に目を向けるようになったという。お母さんたちがゆったりできるサロンをつくりたいと、泰生ビル509号室「nitehi関内kadoue」(当時)で2016年10月にスタートさせたのが、「kadoue mama picnic ROOM」。「ピクニック」という名前は似て非works渡辺梓さんのアイデアだ。

後藤さんの娘がお世話になっていた家庭的保育事業を運営していた管谷章世さんに声をかけ、預かり保育も実施。自身も子育て中の神奈川新聞記者が何回か取り上げてくれたことで、あっという間に利用者が増えた。

「最初は半年くらいやってみてどういう子育て情報が集まるか様子を見てみようと思っていましたが、ニーズはものすごくあることが分かりました。関内エリアにはフランクに関わることができる民間の子育て事業が少ないので、どういう形で運営できるかを考えていました。当時、認可外保育施設を開くことができる企業主導型保育事業というのを知って検討していたところ、預けたい、働きたいという人が集まってきたので、じゃあやってみるかと。ここのビルでやるなら、いろんな人が参加して絶対面白いことになるだろうと漠然と思っていました」

保育園の空間をつくるにあたりブレーンとなってくれたのが、当時さくらWORKS<関内>に籍を置いていた建築家・古市久美子さん(現在はトキワビル/シンコービルに移転)。泰生ビル3階に入居する一級建築士秋山怜史さんや、似て非worksの稲吉稔さんにも相談に乗ってもらった。

給食調理場や事務所も兼ねる、乳児メインの502号室

運営面では管谷さんが園長に(現在は顧問、並びにママピクニックメンバー)。保育士経験のある泰生ビル・泰生ポーチの入居者も手伝い、後藤さんも保育士資格を取得した。そしてビル内のクリエイターのもとで働くスタッフが、いち早く子どもを入園させてくれた。

一律公募をしなくて良い認可外なので、ビル内で働く人、地域の求職中の人やフリーランサーを支援しようと、一時保育の受け入れも重点的に行った。さまざまな周りの大人の協力で成り立ち、またその働き方を支える同園。節分には2階のオンデザインパートナーズやさくらWORKS<関内>に豆まきに行くなど、ビルならではの微笑ましいやりとりも恒例になっている。

 

あらゆる子育て支援のハブに

後藤さん自身の子どもたちが小学生だったこと、学習支援に関心のあるスタッフがいたこともあり、翌2018年からは小中学生以上の学習指導など放課後支援機能を担う「ピクニックスクール」を開始。泰生ポーチフロントでは既に「パン屋のオヤジ」が営業していたが、スペースを共有する話は難なく進んだ。夏休みや冬休みには、似て非worksの末吉町の拠点にお邪魔して、新しい価値観“アップサイクル”の作品づくりを体験したり、「旅するコンフィチュール」の違克美さんにコンフィチュールづくりを教えてもらったり、秋山怜史さんと立体模型で迷路をつくった。

近隣には、ものづくりを教えてくれるクリエイターだけではなく、さまざまな社会的支援のプロもいる。パン屋のオヤジを運営し、生きづらさをもつ若者の段階的自立支援を行うNPO法人ヒューマンフェローシップ(K2インターナショナルグループ)や、発達障害の高校生のための通信教育拠点である明蓬館高等学校SNECだ。後藤さんは昨年度から地域の主任児童委員も務め、中区役所や横浜YMCAが運営する地域子育て拠点「のんびりんこ」、公立学校などとも関わりがある。

ピクニックスクールを開いている泰生ポーチフロントで

「子どもであれば生後10日でも22歳でも相談は全て受けるというスタンスです。全てうちが主体的に関わるということではなく、学校の選び方に悩んでいる子も、居場所がないハイティーンの子も、働きたいけど難しいと悩んでいる子も相談できるところがある。この界隈の力を使って、関わる子どもたちや親御さんたちの気持ちの安寧を保証していきたい」

地域に昔からいる大人たちとの関係を築くことも、安心につながる。後藤さんは「関内まちづくり振興会」のメンバーでもあり、地域のイベントでもさまざまな人たちと協働している。子どもを見かけたら「後藤さんのところのお子さんかな」と思ってもらえることで、ポジティブな声かけ、地域の見守りにもつながる。

 

いいことならどんどんやっていく

「保育園業界ではあんまりこういうことはやらないみたいなんですけど」と前置きしつつ後藤さんが紹介してくれたのは「みんなの園庭プロジェクト」。関内まちづくり振興会を通して関内駅前の大通り公園の活用を考えるチームに加わったことで実現した取り組みだ。広い園庭のない近隣の保育園同士で公園をシェアしようというもので、ハロウィンにはピクニックスクールの小学生たちも参加して仮装ゴミ拾いイベントを行った。

今後も似て非works10周年の屋上作品展に園児と参加するなど、クリエイターと関われる機会をフル活用してさまざまな催しを計画している。

「子どもの学びには失敗がないので、そういう経験も含めてクリエイターの方々とベースをつくっていきたいし、保育事業にはこれからもっとコミットしてもらいたいなと思っています。『子どもなら』と言って皆さんが関わってくれるのがありがたいです。私が今関わりたい人と自分の事業を通して関わっているという面がありますね」

人と人との間に入り物事の可能性を広げていく制作の経験を、子育て支援という形で最大限に生かしている後藤さん。界隈で最も頼もしいクリエイターの一人だ。

 

取材・文:齊藤真菜
写真:加藤甫

 

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