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stay home, keep thinking アフターコロナのためのメールインタビュー vol.3:浅沼秀治

新型コロナウイルスの感染拡大という、数か月前には予想すらできなかった事態。2020年の新年度、誰もがいつもの活動や生活にさまざまな影響を受けました。泰有社のビルに入居するクリエイターたちはいま、なにを考えているのでしょうか。
この時期だからこそ残せる、クリエイターたちの言葉。アフターコロナのためのメールインタビューです。

━ふだんの活動について教えてください。
兵庫県の豊岡市で、築八十年の役場を平田オリザさんが主宰する劇団の拠点劇場にするための改修計画、広島で道の駅を新築する計画、猪苗代湖でのホテル新築計画など、建築設計をしています。また、舞台美術の制作インスタレーション作りのワークショップを海外などを各地で開催してきました。ほかに東日本大震災の発生後から復興事業のために岩手で漁師のコミュニティ施設をセルフビルドで建設、福島で田んぼアートイベントなども開催しています。
 

━新型コロナウイルスとともに生きていくうえで、ご自身の生活や活動に対する「考え方」に、どのような変化がありましたか?
 

自然の中での暮らしと都市生活の両立から学べることをどのようにデザインに反映するかを考えてきました。実際に二拠点生活的なこともしてきたのですが、それらをもっと統合的に捉えて行くことができるのではないかと考え始めました。リモートワークが普及しているいま、人と人が顔を合わせて話をすることにはより重要な意味が出てくると思いますが、各人の暮らしのあり方にもっと比重を置く社会が成立するかもしれません。
 

アトリエモビルは自然環境を室内に取り入れた空間を意識していたので建築的な方向性は変化がなく、より一層そのような空間作りを進めることができると思います。しかし、人が集う、共に愉しむというための空間要素は既存の考え方には問題が出ます。いわゆる密な状態を作ってしまう。それらの点は社会生活様式を再定義して空間に落としていかなければならないと考えています。既存の価値をつかうのではなく新しく考え定義していく、その積極的な姿勢は大きな変化と言えます。新型コロナウイルスがワクチン不在で人類と共存していかねばならないとしたら、建築的には、いままでになかった解決方法を作り出さねばならないと感じています。

 

━新型コロナウイルスとともに生きていくうえで、工夫していること、
心がけていること、大切にしている心構えなどがあれば教えてください。

 

ウイルスを媒介する立場にならないことを考え、人と会う機会を減らすようにしていました。現在は人と会う機会も出てきたので同じ空間にいるときは換気を意識しています。お店での飲食もなるべく避けるので自炊が増えました。自炊の買い物時など外に出かけて何かに触れた時の手指消毒も続けています。
ただしそれらのことについて、穢れを避ける意識が強くなりすぎないように気をつけています。
自動車が走る街の中で生活するときには交通事故のリスクを100%無くすことが不可能なことを受け入れて生活しているように、何が安全でどこまでが受け入れるべきリスクかの判断を自分でするようにして心の健康をたもたねばならないと思うのです。スローガン化された対処法は、その本質的な目的を失いがちです。他者を守り、自分の健康を意識し、社会を動かすためのルールを意識的に考えるようにしています。
 

━いま、いちばんリラックスできるのは、どんなときですか?
 

風や陽光のあるところ、新緑の木々の多様性に身を置いてそれらを感じているときが何よりもリラックスします。
 

━アーティスト・クリエイターとして、いま、どのような表現/活動をしたいと思いますか? その理由も教えてください。
 

新型コロナとの共存をしなければいけないかもしれない、これからの空間作りを考えています。物理的な解決方法はウイルスを知ることで対応が一般化されていくと思います。それよりも、人と人との関係性をどのように再定義するかを考えたいと思っています。デジタルツールで会議することで完全にウイルスを介在しない状態が作れますが、人と人との温かみのある交流を無くして、人が生きていけるか疑問なのです。東日本大震災の放射能被害の際にも考えましたが、リスクの取り方を他者とどのように共有するかが課題だと思います。その中での安全や安心が伝わるような空間を提案していけたらと思います。
 

━コロナ禍が「落ち着いた」と言えるようになったとき、いちばんしたいことはなんですか?
 

友人や知人とお酒を飲みながら思う存分話をする時間を過ごしたいです。 
3月にコロナ対策を施した演劇公演を観たのですが、ロビーでの会話が禁止されていました。それは対策のために必要なことだったのですが、感想を話し合えない寂しさは大きいものでした。この時間が文化を育てるはずなのに。思うような形で人と話をすることができる時代が来るかわかりませんが、形が変わっても温かみがある空間に居たいです。
 

━コロナ禍が「落ち着いた」あと、どのような社会になっていてほしいですか? 近い未来に向けて、希望があれば教えてください。
 
コロナ禍はわたしたちの生活にとって脅威なのですが、チャンスとなる側面もあります。世界観や社会制度、人種、国家、職種、あらゆるものをわたしたちが考え直すきっかけを与えてくれました。機能しない政治制度、政治家、メディアが伝えるべきものは本当は何なのか、リバタリアニズムの持つ問題点、いままでは考えても仕方がないこととその問題を見過ごして来がちでしたが、変えることができるかもしれません。
これをきっかけに社会的に成熟した個人の考えを基とした市民社会が作られたらと思います。 
 

━好きな景色、お気に入りの作品の記録写真、誰かと共有したかった日常の一コマ、なんで
も構いません。お写真1点を、写真を説明するキャプションとともにお寄せください。

江原河畔劇場、仮オープン時のロビー 会話を控えるようにとのポスターが貼ってあります。 みんなと会話ができる場所になりますように。 

profile
浅沼秀治(あさぬま・ひではる)
建築家、Team ZOO アトリエモビル 代表取締役、NPO有形デザイン機構副理事長。
地域の中からフィールドワーク、ワークショップにより発見したものから建築を形づくる。また、空間を作るワークショップを国内外にておこなっている。演劇、ダンスの舞台美術も手がけている。BanART1939のレジデンスを契機に横浜での活動をはじめる。
NPO有形デザイン機構
https://www.facebook.com/youkeidesignorg/

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