横浜・弘明寺にあるGM2ビル。その1フロアに、一風変わったシェアハウス「共創型コリビング ニューヤンキーノタムロバ」(以下、タムロバ)があるのをご存知だろうか。
2022年にできたタムロバには、これまで1年限定の居住制限があり、1年単位で住人が入れ替わってきた。各年度の集大成として、毎年行われるイベントが「ゼロフェス」だ。
4度目のゼロフェスは、4月11日(土)、4月12日(日)の2日間にわたって開催された。6人の住人が「ふかめる、まじわる。」をテーマに行った、ゼロフェス当日の様子をレポートする。
共に暮らしたからこそ描けるもの
普段は漫画家として制作活動に取り組むゆっきーさん。今回は住人一人ひとりのポートレートを制作した。
ゆっきーさん「一緒に住んでいる住人のことを描くので、ただの似顔絵ではなく、人となりを表現できればと思い、自分なりに構図や表情を選びました。漫画では色を使ってこなかったのですが、今回は色も使ってその人らしさを表現しています」
描くにあたって、住人のことを改めて考えたというゆっきーさん。一人ひとりの「らしさ」が表現されるポートレートのなか、異彩を放っていたのがコミュニティビルダー・ぴろさんを描いた作品。表現されていたのは、似顔絵ではなく「概念」だった。
ゆっきーさん「ぴろちゃんは楽しい時ははっちゃけているけれど、常に何か悩みを抱えているような二面性があると感じます。なのではっちゃけている構図と、彼女が悩んでいる時に書いた文章を組み合わせて、ぴろちゃんらしさを表現しました」
同じ屋根の下に暮らしてきた住人だからこそ描けるポートレート。この場所で共に過ごしてきた時間を感じられる作品たちだった。
住人全員と「まじわる」
「ふかめる、まじわる。」というテーマのなかでも「まじわる」にフォーカスを当て、住人それぞれとコラボレーションを行ったのが、あおいさんだ。
あおいさん「私はそもそも物を作ったことがないので、ものづくりができる住人一人ひとりに得意なことを聞きながら、新しい挑戦をしてみました」
なかでも一番大きな挑戦だったのは、ゆっきーさんに教えてもらいながら描いた油絵だったそう。初めての挑戦を笑顔で振り返る。
あおいさん「ゆっきーからは『思うままに描け』と言われたのですが、まず油絵の使い方がわからなくて、絵具を薄めるところから教えてもらいました。基本的な知識もなく本当に1から教えてもらいましたが、初めての油絵はとてもおもしろかったです」
他の住人から少し遅れて、2025年12月に入居したあおいさんだが、明るく積極的にコミュニケーションをとる彼女らしく、住人と交流を深めながらゼロフェスに向かったことがうかがえる展示空間だった。
弘明寺に呼ばれて……
あおいさんと同時期に入居したのが、あめじさん。自身の体験や気持ちが記された文章と、その気持ちを文字に昇華した書が展示された。
大きな窓が特徴的なこの部屋。窓に向かって左側には「見えないヒカリ」、右側には「希」。太陽の光が差し込むこの空間で、光と闇の対比を意識して書が配置されていたのが印象的だ。
今回の展示にあたり、あめじさんが直前まで悩んでいたのが、自身が抱える病気について公表するか否かということ。自身の作品と切っても切り離せないものでありながら、作品の受け取り方を左右する可能性もある事柄のため、心を配りながら、文章の内容や作品の配置を精査していた。
あめじさん「展示の前半で統合失調症と明言してしまうと、その時点で強い先入観が入ってしまうと感じたので、まずは“不思議体験”として読んでもらい、どう受け取るかは見る人に委ねる構成にしました」
自分の体験や苦悩をまっすぐに表現したあめじさんの作品たち。生身の人間が書く「書」のパワーを感じる空間で、多くの人がその言葉を受け止めていた。
思うようにいかない日々で見つけた灯
記者としての経験を持つアニカさん。仕事でのライティング経験は豊富だが、今回は自分の考えや体験を表現するエッセイに初挑戦した。
アニカさん「大学時代にエッセイの授業を受けていたこともあり、いつか自分の考えを表現してみたい気持ちはずっとあったので、この30歳という節目、ゼロフェスという機会にやってみようと決心しました」
「自分の考えを表現してみたい」という言葉通り、エッセイには、思い描いた通りにいかなかった1年のなかで、彼女が感じていた葛藤や悩みや後悔が、包み隠さず記されていた。
1年限定の制限がなくなり、継続して居住する住人が多いなか、4期生で唯一卒業を決断したメンバーが彼女だ。この場所を旅立つアニカさんは、タムロバでの1年をこう振り返る。
アニカさん「自分自身のことを考え直したり、今後何をしてどういう人になりたいかを考えている人が集まるのが、タムロバのすごいところだと思います。私は今までも共同生活を経験していろいろな人と住んできたけれど、こういう話ができる場所はタムロバが初めてでした」
ひとときを経て、はためく幸せ
タムロバの空間を飛び出し、GM2ビルの屋上で展示を行ったゆうやさん。タイトルは、「ひととき」だ。
ゆうやさん「継続してタムロバに住むことを選んだのは、自分の軸や、自分を大切にすることを考える時間にしたかったから。けれどタムロバにいると、つい人のことを考えてしまいました。
そんな時、人間関係や仕事から少し離れて、自分の心の声を聞ける場所が、僕にとっての屋上で。そんな自分にとっての大事なひとときを表現して、人にも体験してもらいたいと思い、今回の企画を考えました」
最後にたどり着くのは、「私にとっての幸せ」を考えるブース。
その答えを書き記す紙は、ゆうやさんの「おばあちゃん家」から届いた米袋から作られていた。自身の原点であり拠り所でもある宮城県・松島の田園風景。そこから届いた米袋に、弘明寺で出会った人々の「幸せ」が刻まれていく。
ゆうやさんが作り出した“ひととき”を経て、屋上にはたくさんの「幸せ」がはためいていた。
抱えたままで
コミュニティビルダーとして1年を駆け抜けたぴろさん。タムロバで過ごした1年は、自分の苦手な部分や抱えている問題と向き合い続けた時間だったと振り返る。
この展示が生まれたきっかけは、ある住人の一言だった。
ぴろさん「ひょんなことから私のぐちゃぐちゃな部屋に入った住人から、『額についているドアを開けて、ぴろちゃん脳内をのぞいたみたいだった』と言われたことがありました。
考えすぎてしまうこと、いろんなものを抱え込んでしまうこと。整えることも、大切に扱うこともできない混沌とした自分の状態が、そのまま部屋に表れていたのだと思います。
だけど持ちきれないものを抱え込んでしまうのも自分だなと思うので、これからは、そのすべてを抱きしめていきたい。そんな思いで、『抱えたままで』というタイトルの展示を作りました」
今回は、言葉にならないぐちゃっとした感情をありのまま表現することに挑戦した。この空間はぴろさんにとって、自分の内側を広げた“部屋”であり、日々筆を走らせている“メモ”の一部でもあるのだろう。
まじわりふかまる、タムロバライフ
ゼロフェスのトリを飾ったのは、ぴろさんとゆうやさんのラップパフォーマンス。ラップ好きの2人が、オリジナルのリリックを作って遊んでいたとある秋の日が、この企画に繋がった。
1曲目に披露されたのは、2025年の秋に2人で作った「タムロバライフ」という曲だ。
1番では、ぴろさんがコミュニティビルダーとしてのもがきや葛藤、2番ではゆうやさんが幼少期の体験と、そこから自分らしさを見つけるタムロバライフへの決意が歌われている。
2曲目に披露されたのが、今回新たに書き下ろされた「まじわる、ふかまる。」。
ラップには住人からかけられた言葉が盛り込まれており、ゼロフェスを迎えるまでの葛藤や、涙を流した日のことが綴られていた。観客の方々は、ハンズアップをしたり手拍子をして、2人のラップを盛り上げる。
なかなか表に出すことのできない悩み、誰かに言葉をもらい、そして与えながら紡いできたタムロバでの日々。それらを赤裸々に声に乗せて届けた2人の姿に、大きな拍手が送られた。
こうして幕を下ろした4度目のゼロフェス「ふかめる、まじわる。」。自分のことを深く考え、互いに言葉や想いを交わしてきたからこそ生まれた作品たちは、見る人の心にきっと何かを残したはずだ。
タムロバでは、5期生となる新たな住人を募集中。自分の人生を見つめなおしたい、現状維持に退屈さを感じている、「いつか」ではなく「今」挑戦したい、そんな方々の入居をお待ちしています!
取材・文:橋本彩香
写真:大野隆介
