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泰生ビル 関内GREEN DAY! ワークショップ&トーク――関内地区の「緑」にまつわる話(後編)

前回に引き続き、今回も今年3月に完成した壁面緑化スポット「KANNAI NIWA STAND」のお披露目イベント「関内GREEN DAY!」密着レポートの後編をお届けします。

関内GREEN DAY!「関内みどりのまちづくりトークセッション」

ワークショップに続き、BankART HOMEで「KANNAI NIWA STAND」のプロジェクトを支えたキーパーソンたちによるトークセッションが開かれた。登壇したのは、石井造園株式会社代表取締役の石井直樹さん、デスクガーデン代表の吉田健二さんをはじめとした、関係者の方々だ。司会を務めたのは、関内地区市街地緑アップ推進会事務局で、横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事の杉浦裕樹さん。トークセッションの中では、午前中のワークショップで完成した「KANNAI NIWA STAND」がついにお披露目に!

関内地区市街地緑アップ推進会事務局で、横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事の杉浦裕樹さんが、本日のトークの趣旨を説明

3年前の海岸通りのプランター作りから、関内の緑化に伴走してきた造園会社の石井造園。本事業だけでなく、関内エリアで複数箇所の緑化に携わってきた地元企業だ。石井さんはこれまでの活動を「みんなで一緒に植栽した緑と、どうしたら仲良く付き合っていけるかを考えています。植物をただ植えるのではなくて、それをみんなで愛でること。『緑化っていいものだ』と誇らしく思える街づくりをしていこうと、少しずつ歩んできました」と振り返った。

石井造園株式会社 代表取締役の石井直樹さん。街づくりと緑化の関係を、熱く語っていただきました

「KANNAI NIWA STAND」のプロジェクトには、植物の専門家として、街なかの雑草をツアー形式で紹介する「UrbanWalk ZASSO」主宰、デスクガーデン代表で通称・雑草博士の吉田健二さんが企画に関わっている。「KANNAI NIWA STAND」に植栽する植物の選定を担いながら、この場所のコンセプトメイキングにも関わった吉田さんはこう話す。
「ここが関内で生活する人たちの“庭”になったら良いなと思っています。プランターに植えたつる性の植物が、金網をはうことで緑化される仕組みを作りました。先ほど午前中のワークショップで、関内地域の小学生や中学生・高校生と一緒に植物を植えて完成しました。コーヒーを飲みにコーヒースタンドへ立ち寄るように、植物を見に人々がここに集まって、交流が生まれて欲しいという思いが『KANNAI NIWA STAND』という名前に込められています」

雑草博士の吉田さん。「KANNAI NIWA STAND」の植物には、自動で水が供給されるシステムが組まれていると話す

「KANNAI NIWA STAND」の植栽の狭間には、4つのアート作品が潜んでいる。作者は、泰有社・トキワビルの入居アーティスト、秋山直子さんだ。「生きた植物を5年間に渡って使用すること」という難しい条件が課せられたが、「だからこそ成立する作品」を発想したという。誕生したのは、土だけが入った「未知の寄せ植え」と、3種の観葉植物にそれぞれの精巧な造花を混ぜた「リアルとフェイクの寄せ植え」だ。
「未来についての正確な予測はできなくても、どうなるのだろう? と予想することはできる。変化を観察する楽しみや想像する機会を、作品を通して提供できたら」と、作品に込められた想いを語った。

『予測不可能な未来を予想するための寄せ植え』をコンセプトとして取り組んだ本プロジェクトについて話す、写真家の秋山直子さん

関内GREEN DAY!「みどりと暮らす実験」

この日最後のトークセッションに登壇したのが、株式会社ツリーハウス・クリエーション代表の小林崇さんと、株式会社オンデザインパートナーズ代表の西田司さんだ。昼間のトークセッションに続き、杉浦裕樹さんが司会を務めた。

株式会社ツリーハウス・クリエーション代表の小林 崇さん(左)、株式会社オンデザインパートナーズ代表の西田 司さん(右)

小林さんとは古くからの知り合いだという杉浦さんが、「そもそもツリーハウスとは何か」お話を聞きたいとリクエスト。ツリーハウスのルーツは、大航海時代のパプアニューギニアにあった木の上の小屋であると小林さんは話す。それは狩猟民族が地上を見張るために作られたと言われているが、高い視点から見ることの面白さもあったのではないかと指摘した。続いてこれまでに小林さんが手掛けた、数々のツリーハウスを紹介。

ネスカフェゴールドブレンドのCMに起用された小林さんの代表作の一つ、北海道のツリーハウス

ツリーハウスを作るアプローチについて語る、小林さんの言葉が印象に残った。
「街の中とか、建物の中の緑化は、自然から緑を持ち込みますが、僕の場合は木の中へ、自然の中へと自分が行くような感覚です」
人工物であるビルなどが揺れると気持ち悪いが、木の上にあるツリーハウスの揺れは気持ちが良いと西田さんは指摘する。
「ツリーハウスは、人間が地球の中で生きていることを感じさせてくれます」
続いて西田さんによるプレゼンテーションが始まった。社会のなかで建築に求められる役割が広がっていくなか、オンデザインは「ビヨンドアーキテクチャー」というコンセプトで、建物の設計にとどまらず、コミュニティづくりにも幅広く取り組んでいる。

オンデザインが小林さんと一緒に手がけている、2020年の東京オリンピックに関連したどんぐり型のツリーハウスを紹介する西田さん。構造の設計には現代の最先端の科学技術を融合し、簡単には実現できない円形のツリーハウスを作っている

街の中で何かプロジェクトを展開するときは、さまざまな分野の人の集合知によってプロジェクトが面白いものになると西田さんは語った。「KANNAI NIWASTAND」での取り組みは、町内会や自治会などで構成された市民の活動に、オンデザイン、さらに関内を拠点に活動するクリエイター・アーティストが加わり、関内ならではのクリエイティブな壁面緑化が生まれた好事例となった。(了)

取材・文:及位友美+佐伯香菜(voids)/写真:中川達彦(ライトハウス)

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