弘明寺商店街の真ん中で、さまざまな人に“小商い”の場を提供してきた「アキナイガーデン」。昨年6月にオープンしてから、あっという間に一年以上が経ちました。改めてどんな人が集まるようになってきたか、どんな変化があったか、同じビルに住みながらアキナイガーデンを運営し“商い暮らし”を実践する神永侑子さんと梅村陽一郎さん夫妻に伺いました。
小商いの同志たち
これまでアキナイガーデンで小商いに挑戦してきたのは、野菜マフィン店、お茶屋、あんこカフェ、ステンドグラス作家、セレクト雑貨店など。商店街を通りかかった近所に住む人やほかの日替わりオーナーからの口コミで集まった人がほとんどで、オーナー同士の距離も近い。
「皆さん自主性が高く、本当に助けられています。コロナの前までは月に一回皆でご飯を食べる会をやっていましたが、そこで話が弾んでオーナー同士でコラボしてくれたこともあります」(神永さん)
一周年記念のイベントは大々的にはできなかったが、オーナーの提案で大掃除を皆でしたそう。最近ではスパイス料理×シフォンケーキ×チャイのお店や、焼き芋のお店も加わった。
なかには、2階のシェアハウス「水谷基地」の住人を訪ねてきた人がアキナイガーデンでの小商いを見て「自分もここで商売をやってみたい」と気に入り、そのまま弘明寺に移住してきたケースもあるそうだ。
コーヒー片手に街歩きへ
神永さんと梅村さん自身は、建築家業の傍ら、これまで月イチでさまざまな小商いを企画してきた。神永さんの茨城の実家から送られてきた米でおにぎりを作って売ったり、梅の実を売ったり、フリーマーケットを開催したり。そして今年6月末から初めて毎週日曜の定期的なお店としてスタートしたのが、コーヒー&ライフスタイルショップ「dayb」。アキナイガーデンでお茶屋のスタッフをしていた渡邊沙織さんとそのパートナーの卓朗さんがコーヒー屋を開きたいと模索していたことから、背中を押されて4人で一緒に営業することになった。
コーヒー豆は、神永さんと梅村さんが以前住んでいた西区・藤棚商店街のコーヒー専門店「405 COFFEE ROASTERS」で仕入れている。マスターの松浦真吾さんが「dayb」のためにオリジナルブレンド「AKINAI」と「YAMITSUKI」を用意してくれた。淹れ方も松浦さん直伝だ。
「コーヒー屋さんは近くにもあるし競合にはなれないと思いましたが、ここは休める橋も目の前にあるし、川沿いを歩いていると亀が泳いでいたり、面白いところがたくさんあります。街を歩きながらコーヒーを飲むような、日常にコーヒーの楽しみ方を増やす提案ができるといいなと話をしています」(神永さん)
店内は決して広くないアキナイガーデンだが、暗黙の了解で通りにはみ出して営業している商店街の多くの店に倣い、「dayb」の日は客席を店の外に置いている。以前から、目の前のさくら橋では座ってお弁当を食べたり買い物客が世間話をしたりといった豊かな風景が広がっていた。店頭で買ったコーヒーを店先のベンチで飲んでいる人たちを見ると、そんな風景が拡張され、商店街の空気に影響しているように感じる。ほかのオーナーたちもその様子を見てレイアウトを真似るなど、その日の内容に合わせて工夫できるように、什器も新調した。
「dayb」では、コーヒーだけでなく、そうした「街なかでコーヒーを楽しむ」仕組みまで考えようと、現在持ち込み用のタンブラーや豆を入れる容器も開発中。さらに、コーヒー豆の出がらしを使った鉢植え作りにも取り組んでいるそうだ。
「エコの視点も取り入れていきたいと思って、 豆の出がらしでポットを作っていた方から事業を継承したんです。自分が飲んだコーヒーでポットを作れるようになったら面白そうだなと」(神永さん)
“生活の延長の場”として
弘明寺名物の花見の時期に大々的にイベントが打てないという痛手を負ったが、コロナの影響か、街には今まであまり見かけなかった若い人が増えたという。最近になって、在宅勤務の人にも気軽に使ってほしいと30分単位での時間貸しも始めた。
「お店という感じじゃなく、気軽に使ってもらえる場所にしたい。水谷基地のメンバーが何度も仕事場として使いに来てくれたり、アキナイガーデンの常連の絵描きさんがアトリエとして使ってくれたりもしました」(梅村さん)
当初から掲げていた“生活の延長の場”“庭”として、今だからこそ提案できる使い方がまだまだありそうだ。
神永さんと梅村さんも在宅勤務をすることが増え、アキナイガーデンをオフィスとして使うことが多くなったそう。上階の自宅にも仕事用デスクを増やしたが、二人とも在宅の日はアキナイガーデンと自宅に分かれて仕事をするなどうまく使い分けている。
アキナイガーデン同様“暮らしと小商いの関係”を意識して設計された自宅は、必然的に現在のニーズにも合っているようだ。二人が使いやすいように自ら設計したこと、もともと二人とも持ち物が少なめだったこともあってか、一年超経った今も空間全体がとてもきれいで快適な雰囲気のまま保たれている。大きなキッチン台や天井から吊るしたプロジェクターも、セルフリノベーションならでは。テレビは置かず、ときどき壁に投影して上映会を楽しんでいるとのこと。
仕事場としての機能も、より長時間快適に過ごせる場所としての機能も、さまざまな役割が自宅に求められる現在。商い暮らしの形から取り入れられることも多そうだ。
文:齊藤真菜
写真:加藤甫
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