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GM2ビル アートスタジオ アイムヒア 路上生活経験者たちが織りなす身体の祭典

路上生活の経験者で構成されたダンスグループ「新人Hソケリッサ!」(以下、ソケリッサ)。2021年秋から1年をかけて、横浜や東京の屋外を中心に新作公演「2021-2022『路上の身体祭典H!』新人Hソケリッサ! 横浜/東京路上ダンスツアー」を行っています。今回は、去る昨年10月に会場となったGM2ビルでの公演におけるプログラムをレポート。ソケリッサ主催・アオキ裕キさんと、GM2ビルにスタジオを構える現代美術家・渡辺篤さん、シンガーソングライター・寺尾紗穂さんのトークを中心に、GM2ビル屋上での新作ダンスの様子をお届けします。

トークイベント:ダンスと音楽、アートが一体になったとき

GM2ビル屋上。新作の『ヒニヒリズム/今度会ったらロクでもない奴らと仲良くなりてえ・・』は、身体、拡声器や太鼓などの小道具、踊りに合わせて変化するライティングを駆使したものとなった

アオキ (公演を終えて)良い場所ですばらしい時間を過ごせました。新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)拡大の状況がなければ、もう少しお客さんを入れたかったのですが、この状況の身体を大事にしたくて。映像などに記録したものを最終的に公開する予定です。コロナ禍で、社会などから分断された時の人間の弱さを感じていました。そんな希望がないような状況だからこそ、身体が引き立つのではないか――。そんな思いを今回の作品にしました。こういうときにこそ、個人を確立することが大事だと思います。

メンバーが共同するダンスも。奥から平川さん、アオキさん

渡辺 僕が知っているソケリッサの踊りのなかでも、今回の新作は静かでゆっくりな動きのパートも多かった気がしました。ソロで踊るシーンも多いのが印象的。僕は4〜5年前にソケリッサと出会い、その時小磯さんが踊っているのを見て号泣してしまって。また使用されていた音楽が寺尾さんの曲で、その日からソケリッサと寺尾さんのファンになったんです。
 

寺尾 久しぶりにソケリッサとコラボレーションすることができ、楽しかったですね。ソケリッサも出演してもらっていた「りんりんふぇす」(2010年よりビックイシューを応援する寺尾さん主催の音楽イベント)もコロナの影響で2年ほどできていないので。

ソケリッサと寺尾さんのコラボでは、メンバーそれぞれが選曲した曲を寺尾さんが生演奏。ダンサーたちは、ダンスで自身の世界観を表現した。写真は浜岡さん

アオキ 2m以上ある長い竿の先につけた拡声器など、稽古場では使えなかった小道具もたくさん使っていて、本番で初めてすべてを合わせました。未完成の良さというか、踊っているうちに変化していく感じがとても楽しかったですね。
 

渡辺 ソケリッサの踊りに間違いというのはあるんですか?
 

アオキ 基本的にメンバーの踊りは決まっていて、即興ではないんです。「手を今日はもう少しあげよう」とかそのくらいの変化はありますが、もし踊りを忘れてしまった場合でもバランスをとるので、明確な間違いというのはないかもしれませんね。

裸足で踊るメンバーが多いのも特徴的

渡辺 僕はひきこもり当事者が撮影した部屋の写真を使ったアートプロジェクトを始めた時、当初はアーティスト側の都合で、写真に格好いい加工編集を加えようと考えてしまっていました。そんな時にアオキさんに出会ったんです。“おじさん”たちの身体の癖や体型といった個性を、矯正したり上塗りしたりするのではなく、どのように肯定や尊重するのかという話を聞きました。料理に例えると、塩・こしょうだけで美味しくできる料理人(笑)。カレー味とか、強い調味料を使わなくても、素材を活かして美味しく調理できる人なんだなと。
 

アオキ でも当初はカレー粉をたっぷりのせてやろうと思っていましたよ(笑)。だけどやっぱり“おじさん”たちの動きが硬くなってしまって、いまのかたちになりました。始めた頃はみんな自分よりも年上で愛称を込めて“おじさん”と呼んでいたんですが、いま呼ぶと僕より若い人もいるので怒られるんですよね。

手前奥から浜岡さん、西さん、平川さん、寺尾さん。後ろ奥から小磯さん、山下さん、渡邉さん、渡辺さん、アオキさん

渡辺 僕は2021年2月にR16 studioで「同じ月を見た日」というコロナ禍の月をモチーフとした展覧会を行いました。寺尾さんの曲には月という言葉が出てくる曲がいくつかあり、その時のプロジェクトの世界観設計をつくるうえでヒントをもらっていました。寺尾さんの“月アルバム”みたいなものを自分でつくっていまもよく聞いています。
 

寺尾 ライブにも何度かきてくださって。面白いアーティストだと思っていました。

トークの会場となったGM2ビル内の渡辺さんのスタジオ「アートスタジオ アイムヒア」には、渡辺さんの作品が並ぶ。チカチカと点滅していた天井の球体ライトは《ここに居ない人の灯り》(2021)。ライトは一灯ずつがオーナー制となっており、「同じ月を見た日」に参加したメンバーが地球上のどこかから自身のスマートフォンを通して点滅させている
会場の階段途中には《月はまた昇る》(2021)という作品も。孤立感を抱く人々が撮影した月の写真を募集し、クローズアップで写した約70枚を、月齢順に並び替え映像化した作品

アオキ 会場にもあるコンクリートの家の写真がとても好きなんですよね。ネットで初めて見て、目が離せなくなりました。
 

渡辺 1畳サイズのコンクリートの家を模した造形物をつくって、1週間そのなかで生活しました。僕のひきこもり経験を、演劇的に表現したパフォーマンス作品です。

写真中央左にあるのが、《止まった部屋 動き出した家》(2014)の記録写真のパネル

アオキ 最後にこちらの会場でも小磯さんに踊っていただいて終えようかと思います。

2022年1月現在も、ソケリッサ公演「2021-2022『路上の身体祭典H!』新人Hソケリッサ! 横浜/東京路上ダンスツアー」は進行中。GM2ビルの次となる第2回目は、2021年10月に日本丸メモリアルパークで踊った。今後も人が密になるのを避けるため、公演の10日〜3日前の告知を予定しているという。
 

路上生活を経験してきたソケリッサのメンバー。ダンスの「振り」として幾度も表れていた何かを掴み取るような動きには、生きることへの欲望を感じた。横浜・東京を中心に彼らの路上の身体を目撃してほしい。

2021-2022 路上の身体祭典H!「新人Hソケリッサ! 横浜/東京路上ダンスツアー#1」
日時:2021年10月10日(日)18:00〜20:30(17:30開場)
会場:アートスタジオ アイムヒア(弘明寺・GM2ビル)
入場料:4000円(事前予約制・定員30名)
https://sokerissa.net/node/426

今後の公演情報については、以下からご確認ください。
https://sokerissa.net/schedules

PROFILE
アオキ裕キ/新人Hソケリッサ!
ダンスグループ。路上生活経験を持つ参加者により構成。2005年よりダンサー/振付家アオキ裕キがメンバーを募り、2007年に第一回公演「新人Hソケリッサ!」を行う。近年では2017年〜2018年にかけて、東京近郊の屋外全15カ所に渡るパフォーマンス「日々荒野」ツアーを開催。これまで40以上の路上生活経験者が参加、現在のメンバーは6名。リオ五輪公式文化プログラムのセレブラ「With one voice」等参加。コニカミノルタソーシャルデザインアワード2016、グランプリ受賞。活動を追ったドキュメンタリー映画『ダンシングホームレス』全国上映中。https://sokerissa.net/
寺尾紗穂
シンガーソングライター。1981年東京生まれ。2007年ピアノ弾き語りアルバム「御身」でデビュー。大林宣彦監督の「転校生 さよならあなた」、安藤桃子監督の「0.5ミリ」など映画主題歌やCMの仕事も多い。2010年よりビッグイシューを応援する音楽イベント「りんりんふぇす」を主催。あだち麗三郎、伊賀航と共にバンド「冬にわかれて」でも活動中。著書に『南洋と私』(中公文庫)『天使日記』(スタンドブックス)など。近作アルバムに「北へ向かう」「わたしの好きなわらべうた2」。http://www.sahoterao.com

渡辺篤
現代美術家。2009年東京藝術大学大学院修了後に深刻なひきこもりを経験。その後現代美術家として社会復帰。2020年度「横浜文化賞文化・芸術奨励賞」。主な展覧会は「同じ月を見た日」(R16studio、横浜、2021年)、「Looking for Another Family」(MMCA韓国国立現代美術館、ソウル、2020年)等。ひきこもりをはじめとする孤立当事者らとの共同企画「アイムヒア プロジェクト」主宰。アートスタジオ アイムヒアを運営。https://www.atsushi-watanabe.jp

取材・文:中村元哉(voids)
写真:大野隆介

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