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水谷ビル/GMビル/GM2ビル
オープンビル「まちごと内覧会」
弘明寺商店街に集積する実験的な住まい/仕事場を訪問

若手建築家による小商いの拠点や個性豊かな住居が次々と生まれ、少しずつコミュニティを形成してきた水谷ビル。今年に入ってそこに写真スタジオ兼アトリエが加わり、同じ通りのGMビルとGM2ビルには新たな住居2軒とシェアハウスが誕生しました。7月3日には「まちごと内覧会」と題し、3つのビルの各部屋を改めてお披露目。新住人を訪ねました。

西村恵佑さんと千代田彩華さん

二人の暮らしを詰め込んだ「house ABC」

弘明寺商店街の水谷ビルと数軒離れた並びにあるGMビルは、同じく1階・2階に店舗が入り、3階から上がマンションとなっている。4階の「house ABC」に住むのは、建築家の西村恵佑さんと、設計事務所で主にまちづくりを担当しイラストなども手がける千代田彩華さん。水谷ビルのシェアハウス「水谷基地」に住んでいた二人は千代田さんの仕事の都合で都内への転居を考えていたが、泰有社からこの物件を紹介され、弘明寺に留まった。西村さんが設計を担当し、千代田さんがこの部屋での暮らしについての発信を担う。

白を基調に明るい色のアクセントが入り、曲線が柔らかい印象を与える部屋

入ってすぐのキッチンの前には、可愛らしい配色の扉が二つ。手前が西村さん、奥が千代田さんの仕事部屋だ。「形や色といった抽象的なもので表現したいと、“abstract”や“color”にちなんで付けた名前が『house ABC』です。『続いていくものの最初』の意味も込めました」と西村さんは話す。

西村さんの仕事部屋。作り付けの棚と机がとても使いやすそう
ファッションが趣味だという千代田さんの好きなものが詰まったアジトのような部屋

奥は階段になっていて、千代田さんの部屋の上のロフトにつながる。設計期間は約1ヶ月半。水谷ビルと行き来しながら設計・施工を併行して進め、塗装やタイル張りは自分たちで行った。

遊び心のある階段。ロフトが寝室になっている
窓際の植物との調和もぴったり

二人の在宅ワークと生活のための空間をパズルのように組み合わせて収めたこの部屋でどんなライフスタイルを送っていくのか、今後の発信も楽しみだ。

部屋での暮らしを紹介するオリジナルの冊子と、二人のお気に入りの店を紹介する「弘明寺 偏愛マップ」

キッチンが中心にある賃貸「K-room」

GMビルの3階には、水谷基地を手がけた4kado design studioの塩脇祥さんによる新たな賃貸住宅「K-room」が誕生。「house ABC」と共に塩脇さんがプロデュースする「ライフスタイル特化型」賃貸住宅の第1弾で、多様なライフスタイルに合わせて企画した複数のプランのうちの一つが形になった。通常37平米の広さでは考えられないようなアイランドキッチンを設え、料理を暮らしの中心に据えたい人のための贅沢な作りになっている。

部屋の真ん中に幅2550mmのキッチンを設置

想定する住人は、料理教室の先生やお料理YouTuberなど。背面カップボードは便利な位置に電源を備え、デスクとしても使用できる。

4kado design studioの塩脇祥さん。部屋の奥からもキッチンを見渡せる
キッチンの高級感に合わせ、全体的にシックな部屋に。ベランダからの明るい光がキッチンにも入る

たまたま部屋が空いたことから、これまでとは違う需要に合わせた実験的な物件にしたいという泰有社の要望で企画・実現した「K-room」。4kadoでは、このほかにも多様なライフスタイルに合わせ、仕事場をメインにした「W(Work)-room」、収納を重視した「S(Storage)-room」、自然を取り入れた「N(Nature)-room」の3つのライフスタイル特化型賃貸を提案している。塩脇さんは、「賃貸住宅の新しいブランドをつくっていきたい」と語る。

グラデーションを楽しむ写真スタジオ「Studio neutral」

水谷ビル「アキナイガーデン」の梅村陽一郎さんと神永侑子さん夫妻がウェディングフォトの依頼をきっかけに知り合ったというのが、Studio neutralの井上秀兵さんだ。水谷ビル4階のこの部屋は、マジックアワーやグラデーションのある時間を好んで撮影する井上さんの作品から着想を得て、アキナイガーデンスタジオが設計。グレーからグレージュへ変化するアール壁が神秘的ながらも落ち着いた雰囲気を醸し出している。

周辺に大きい建物がない南向きの角部屋という立地を活かし、ワンルームの写真スタジオ兼アトリエに

スタジオとしての貸し出しや、スタジオ利用込みでの撮影を引き受けるほか、気軽に友人を招くことができるコミュニティを持つための場としても重宝しているそうだ。

Studio neutralの井上秀兵さん。竹のブラインドとミニマルな作りの家具が落ち着いた部屋と調和している

若者がまちに新しい風を吹き込む「ニューヤンキーノタムロバ」

弘明寺商店街の外れ、GM2ビルの4階にできたのは、その名も「ニューヤンキーノタムロバ」。YADOKARIがプロデュースする、互いに刺激し合いながらクリエイティブな活動に専念できる若者のための一年間限定のシェアハウスだ。

リビングダイニング。共用部のそこかしこにある「日々のクリエイティブに火を付ける」メッセージは、ハサミとガムテープだけで作られた佐藤修悦さんデザインの「修悦体」を採用

現在入居しているのは、カメラマン、モーションデザイナー、ダンサー、保育士、自衛官、八百屋など実に多彩な面々。入居を希望する理由や一年後の目標を答える面接を経て選ばれたメンバーで、弘明寺にはゆかりのない人ばかりだ。ここでの1年間の集大成として、住人たちが一体となって表現を行う「ゼロフェス」をイチから作り上げるため、毎週木曜の住民会議とは別に隔週で企画会議を行っている。

可動式の家具で、レイアウトも自由自在

住人同士のコミュニケーションは主にSlack。「メンバーの提案で、共用のノートや黒板も置いています。ゴミを減らすためにもと話し合って、共用の炭酸水メーカーを購入する交渉も運営側とするなど、みんな自分から積極的に意見を出してコミュニケーションのとれる人ばかりです」とYADOKARIスタッフで住人でもある中谷優希さん。現在、ニューヤンキーノタムロバではroom9のみ入居者を募集中だ(8/25時点)。この記事を読んで興味をもった方は、この機会にぜひ入居を検討してみては?

「アジト」と名付けられた部屋には、各入居者が持ち寄った本が置かれている

新たな拠点の誕生で、さらにさまざまな実験的ライフスタイルを送る人が集うまちとなった弘明寺。これからの化学反応に大いに期待したい。

入居者募集中!
ニューヤンキーノタムロバ|弘明寺GMビルレジデンス
https://newyankee.jp
※room9のみ入居者募集中(8/25時点)

取材・文:齊藤真菜
写真:大野隆介

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