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トキワビル
入居者ファイル#37
村上三水さん(株式会社FURIKIRI)

トキワビルの4階に入居する「株式会社FURIKIRI」。無垢フローリング張りの落ち着いた部屋の壁一面にはアニメーション映画のポスターがたくさん飾られている。ここを拠点に不動産関係のコンサルティング業を行っているのが、村上三水さんだ。

村上さんがトキワビルに入居したのは、一級建築士事務所「秋山立花」(泰生ビル)の秋山怜史さんからの紹介がきっかけ。秋山さんに出会ったのは前職の同僚とのつながりだったという。独立するタイミングで横浜にオフィスを探していたところ、トキワビルを紹介してもらった。2019年のはじめに入居し、現在は307-aとbを借りて、それぞれオフィスと倉庫として使い分けている。村上さんは「不動産会社を入れてくれるビルは珍しい」と語る。「同業であるがゆえにちょっと敬遠されてしまうところがあるのですが、泰有社さんはすんなり受け入れてくださったので感謝しています」。

洗練されたイメージの玄関。たくさんのドリンクで来客をもてなす

野球一筋から不動産業界へ

村上さんは東京・蒲田生まれ。学生時代から野球に打ち込み、大学にもスポーツ推薦で入学した。しかし1年生のとき、自営業をしていた父親が体調を崩し、家業を手伝うために自主退学を決意する。父親の病が回復したのを機に別の大学に入り直し、新卒でマンションデベロッパーに入社した。学歴としては3浪の扱いになるため、就活はとても難しかったという。その後は30歳を機に同じ業界内で転職し、その後の起業の鍵となる投資家たちとの人脈も広がっていった。「父が自営業をやっていたこともあり、自分もいつかは社長になりたいという気持ちがありました。いろいろな会社を経験して、起業を決意したタイミングで、オフィスも見つかりました」。

「FURIKIRI」という社名は、村上さんが大ファンだと語るガイナックス制作のアニメ『フリクリ』に由来する。「4話のタイトル『フリキリ』から取りました。それまで奥手だった主人公の少年が地球に落ちてくる隕石をバットで打ち返すトンデモ展開なんですが、その話のなかから、人生の大事な場面に対峙したときに見送るのか、当てにいくのか、バットを振り切るのかが大事だと思ったんです」。アニメや野球など、好きなものにインスピレーションを受けた村上さんの歩みが感じられるエピソードだ。

部屋の壁には、一面ジブリやガイナックス作品のポスターが貼られている

村上さんがFURIKIRIで手がけるのが、不動産投資家のコンサルタント業。具体的には、投資家が検討する土地に対して、どのような建物をつくれば収益性が最大になるのかをアドバイスする仕事だ。例えばマンションを建てる際には、銀行の融資を利用する場合が多く、利回り(不動産運用で得られる年間の見込み収益)が重視される。村上さんの仕事は、ターゲット層の見極めに始まり、間取りプランの提案や家賃を含む募集条件の設定を不動産大家となる投資家に対してコンサルティングするところからスタートし、実際に入居者付けまでを請け負う。

「実際に建物を建ててもらわないとビジネスは始まりません。そのために融資が下りる利回りから逆算して賃料設定をし、その賃料に見合った間取りや仕様設備を決めていきます。まず先にゴールを決め、そこから現実的な範囲でさまざまな要素を組み立てています」。現在は新築賃貸マンションの依頼が多いが、中古物件の売買などを行うこともある。基本的には10棟前後を保有している専業投資家や業者とのやり取りがメインとなるため、ゆるやかに人脈を広げながら、仕事は完全に紹介制で引き受けているという。

村上さん。「フリキリ」の文字があるTシャツは知人のイラストレーターによるデザインで、2匹の愛猫も描き込まれている

当たり前のことを大切にする

「これまで一番印象に残っているのは、長らく空室だったマンションを担当したところ、1週間もかからず満室にできたときです。依頼としてはそこまで難しいものではなかったのですが、テレビCMでも見かける大きな会社の社長さんが所有している物件でした。その社長から直々にお願いされたのもあり、やりがいがありましたね」と話す村上さん。物件自体の良さを伝えるためには、何が重要なのだろうか?

その答えは、意外にも「写真」にある。多くの人は大手情報サイトを使って物件探しを行うため、物件そのものより先に、インターネットの情報を目にすることになる。そのため、掲載する写真の数や撮り方、入居に関する情報の豊富さが重要になるのだ。「当たり前のことを、当たり前にやることが大切だと感じています。賃貸募集を行う不動産業者はどうしても数をこなす必要があり、掲載写真の撮影なども流れ作業的になりがちです。FURIKIRIでは写真だけでなく募集条件などの情報もきれいに整えます。問い合わせにも全て自分が対応しているので、募集~内見~申し込みまでの流れもスムーズに行うことができています」。

『王様のブランチ』でも取り上げられたプロデュース物件*

また村上さんは新築物件をコンサルティングする際、部屋の構造まで細かくチェックしているという。例えばコンセントの位置。どこに配置にするかによって、入居者の家具の配置はおのずと定まってくる。マンションであれば、隣接する部屋同士でベッドが隣り合わないよう注力している。隣り合う部屋同士で壁を隔ててベッドとテレビの距離が近づけば、騒音トラブルなどにつながるかもしれない。そのため、家具の配置が部屋によってうまく分散するように調整しているのだ。「当たり前のこと」を大切にし、オーナーの利益を考えることが、結果的にそこで暮らす人の快適さにもつながっていく。

住まいを「えこひいき」する

FURIKIRIのコンセプトは「スマイノ、ゼンリョク、エコヒイキ」。ここには、顧客のニーズにできるだけ応えていきたいという村上さんの熱意が表れている。「物件の管理会社と投資家の“儲け”のかたちは違います。管理会社は薄利多売であり、量的なストックを増やしたいので一つひとつの物件に出来るだけ注力せず、均一化させていきたい。一方で投資家側は、自分の物件の価値を質的に高めて”えこひいき“してほしい。均一に物件を扱いたい管理会社と、自分の物件は特別扱いしてほしい投資家。ここで生まれるギャップに、自分ができるだけ対応していきたいと考えています」。

入居者の募集までを行う村上さんの強みは、管理会社と投資家のあいだに入って、双方の便宜を図る役割を担っていることだ。管理会社は建物や入居者管理がメインのため、募集にあまり力を入れられない場合も多い。そこに村上さんが入って手間を省くことで、管理会社は投資家に対し管理料をディスカウントできるのだという。

会社のロゴや表札にもキャッチコピーが書かれている

近年は全国を飛び回り、地方の物件にも関わっているという村上さん。最近はあるオーナーから、下関や神戸にある築古物件のコンサルティングを依頼された。新築マンションを多く手がけてきた村上さんにとっては新鮮な経験だった。完全にリフォームして貸し出すことは難しいため、現在は最低限の改修で入居者を募集する準備をしている。「生活困窮者の方に物件を紹介する居住支援法人や外国人技能実習生を受け入れている協同組合にアプローチしたり、これまでとはまったく違う方法で取り組んでいます。地方の不動産業界は、東京と違う考え方をもっていることもあって、交渉にはやりがいがありますね」。

こうした地方での経験を経て、今後は管理会社をつくってみたいと語る村上さん。「管理会社はだいたいが土地に根付いたもので、投資家に特化した会社はないんです。そこで、物件に関するイレギュラーな相談を受け入れ、投資家さんを”えこひいき”できるような管理会社を構想しています。主に募集などに力を入れて、日常的な施設管理は地元の会社に依頼する。そうすれば、地方の物件も活性化することができると思います」。

新代田で竣工中の物件「YN491」*

直近では新代田に、秋山さん設計・村上さんプロデュースのコラボレーション物件が完成予定。メゾネットタイプで、ガレージのある1階から3階までが螺旋階段でつながっている、珍しい物件になったのだとか。不動産業界のなかでも独自の道を切り開いてきた村上さんの旅は、これからも続いていくことになりそうだ。

村上三水[むらかみ・さんすい]

株式会社FURIKIRI代表取締役。1987年12月22日生まれ。
不動産業。TVでよく見る芸能人の部屋探しから投資家のお手伝いまで楽しそうな仕事のみ引き受けている。最近は実家の家業も引継ぎバタバタしている。犬派から猫派に寝返る。右投右打。

取材・文:白尾芽(voids)
写真:森本聡(カラーコーディネーション、*をのぞく)

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(泰有通信 vol.4掲載)

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