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トキワビル
入居者ファイル #47
手塚一雅さん(株式会社CES.緑研究所)

CES.緑研究所のホームページで紹介されている浜離宮(恩賜庭園)の保存活用計画、小笠原諸島の調査、南町田グランベリーパーク鶴間公園の実施設計、さらには横浜市内にある「市民の森」の基本計画――。これらはランドスケープを専門とするCES.緑研究所の代表・手塚さんが、これまでに携わった案件だ。その領域の広さに驚かされる。すべての仕事に通底しているのは「場所がもっている価値を引き出しながら、それをどう伝えるか」という視点だ。

CES.緑研究所のコンセプト

社名のCESは、「Culture」「Environment」「Space」の頭文字からとられている。東京の造園コンサルタント会社に長年勤め、公園や緑地の計画設計を担当してきた手塚さんは、2018年にCES.緑研究所を起業した。これまで多くの空間づくりに携わるなかで、人が自然と一体になってふれあえる空間に魅力を感じてきたという。
 
「自分がやっているのは“環境づくり”ではないかと思いはじめていました。社会人になったころは、空間デザインの全盛期。ランドスケープの人は自然環境のことをよく知らなかったり、一方で自然環境のプロは計画についてはよくわからなかったり……といったケースが多かった。そんななか、ランドスケープアーキテクトとしての自分の強みは、“自然環境”だと考えたんです」

手塚一雅さん

独立するのであれば地元の横浜で、と考えていた手塚さん。最初のオフィスは、吉田町に借りた。今はスタッフが4人だが、起業当時は奥さまの悦子さんと二人三脚のスタートだった。前職からの仕事を続けながら、CES.緑研究所でも文化財庭園の保存・修復といった案件を手掛けていくようになる。
 
やがて横浜市の有資格者名簿にも建設コンサルタント登録をして、公共の仕事を受託する準備も整えた。だがランドスケープの仕事は規模が大きいこともあり、当初はなかなかきっかけがつかめなかったという。地道な営業も続けた。そんな努力が実を結び、あるとき横浜市内の「市民の森」基本計画の指名競争入札に声がかかった。

オフィスの一角にも、緑があふれる

転機は「市民の森」の基本計画

横浜市内の「市民の森」の基本計画は、CES.緑研究所が初めて受託した公共の仕事だった。この案件で、手塚さんは横浜市・環境創造局から優良事業者として表彰も受けた。2023年8月のできごとだ。「この仕事が転機となって、その後は指名もいただけるようになって。仕事も増えてきたのでスタッフも雇い、手狭になったので、同じ関内エリアで移転先を探したんです。トキワビルはネットで検索して見つけました」。
 
「市民の森」とは、散策路や広場、公園などが一体となった「森」のこと。横浜市内のあらゆる区に点在している。基本計画をつくるプロセスをお聞きした。
 
「重要なポイントは、自然環境を保全しながら、大切さや楽しみ方を伝えること。自分が手がけた森は、尾根や谷がある複雑な地形でした。落葉樹や竹林、草地などを楽しみながら歩ける散策路とはどのようなルートか。植生を見極めながら、プランを考えていきます。
また見晴らしがよいところでは、景観も取り込みます。昔はすぐそこまで海だった場所も、今では埋め立てが進み、遠くのほうに海を臨むかたちになっている。かつて海がすぐそこにあったことを感じてもらえるように、設計したいと考えました」

手塚さんご夫妻のお子さまが描いたという木の絵。オフィスの一角に飾られている

広大な森のなかにどのような散策路をつくるのか、植生に関する知識がなければプランすること自体が難しいだろう。自然環境の保全を考えるとき、思い浮かぶのは絶滅危惧種だが、大切なのは個体の保全ではないと手塚さんは指摘する。
 
「個体を守ることももちろん大切。ですがランドスケープアーキテクトが考えなければいけないのは環境を守ること。これは技術者だけではなく、市民の人と一緒に守っていかなければなりません。そういう方向性へ、計画を進めていくことを大切にしています」
 
実際に手塚さんが計画した「市民の森」が完成するのは、今から3~4年後ぐらいになるそうだ。

株式会社CES.緑研究所のオフィス(トキワビル4階305号室)

ランドスケープアーキテクトの“環境づくり”も

CES.緑研究所の仕事だけでも、ボリューム感のある業務。日々を忙しなく過ごす手塚さんだが、業界団体の「一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会」に所属したり、「日本造園学会」では監事を担ったりと、八面六臂の活躍をみせている。なかでも力を入れているのが、「登録ランドスケープアーキテクト(RLA)」資格制度の普及だ。手塚さんは運営委員長を務めており、資格認定試験の運営に携わっているという。
 
「登録ランドスケープアーキテクト(RLA)は、日本のランドスケープアーキテクトが国際的に活動できるような資格制度になることを目指しています。RLAの資格は、専門教育やОJTを経て、資格認定試験を受けることで取得ができますが、継続的な専門教育により更新していく必要もある資格です」
 
ランドスケープアーキテクトが世界で活躍できる礎を築き、業界全体の環境も整えていく――。“環境づくり”を極めるランドスケープアーキテクトとしての一貫した姿勢が、そこにはあった。

手塚さんが編集・一部執筆した「ランドスケープアーキテクトになる本Ⅰ」

取材・文:及位友美(voids)
写真:大野隆介

PROFILE

手塚一雅[てづか・かずまさ]
1969年生
株式会社森緑地設計事務所入社
株式会社CES.緑研究所 代表取締役
所属:
公益社団法人 日本造園学会 監事
一般社団法人 ランドスケープコンサルタンツ協会 理事(RLA運営委員長)
一般社団法人 ランドスケープアーキテクト連盟 理事
資格:技術士(建設部門/都市及び地方計画・建設環境、環境部門/自然環境保全)
   RLA(登録ランドスケープアーキテクト)