「関内外OPEN!15」に設定されたテーマは「創造性と創造性の交換」。モノに対してお金を交換する本来のあり方ではなく、「創造性」を交換しようという提案です。メイン会場の旧第一銀行横浜支店では、シンポジウムなどのイベントが複数組まれました。
サテライト会場となった泰有社の各ビルでも、クリエイターたちがテーマに呼応した企画を展開。まだ夏の気配が残る秋の1日に、関内桜通りをはさんで向かい合う「泰生ビル」と「泰生ポーチ」、そして「トキワビル/シンコービル」界隈は、多くの人で賑わいました。
「あなただからこそのコーヒーミュージック」
なかでも「創造性と創造性の交換」というテーマが色濃く反映されていたのが、このプログラムです。訪れたお客さまとの対話から、シンガーソングライターが即興で作曲し、曲を披露する屋台カフェで、コーヒーを準備する間のおしゃべりから、音楽が生まれる過程を楽しむ企画でした。
もともとこのプロジェクトは、コロナ禍をきっかけに生まれたものです。人と対話をする場がもちにくくなったことから、移動式屋台「からこそcafé」をはじめた瀧脇信さん協力のもと、音楽で何ができるのか模索していた2組のシンガーソングライターが企画した連続ワークショップがありました。このときは、対話・歌詞づくり・曲づくりを3回に分けて行いましたが、スピンオフ的な場となった関内外OPEN!では、それらのプロセスを1回にまとめた企画として挑戦したと瀧脇さんは振り返ります。
「一緒に活動している菅野翔太さんと、あおしぐれは、BAYSISという関内のライブハウスを拠点に活動しているシンガーソングライターです。彼らがライブハウスを飛び出して地域に出たことで、日頃シンガーソングライターとつながる機会のない道行く人たちと、出会う場になった手ごたえがありました。『自分も音楽をやっていた』という人も多くて。うれしい発見でしたね」
菅野翔太さんとあおしぐれは本年度より新しく、猫の手でも借りたい、”ちょっとした困りごと”に手を届ける活動「ねこのてて」を始めます。
「オープンスタジオツアー」
建築家やアーティスト、デザイナー、編集者・ライターといったクリエイターが多く拠点を構えているのが、トキワビル/シンコービルです。毎年恒例の「関内外OPEN!」の企画も、「住民会」での議論を重ねて検討していきました。今年も、関内外OPEN!のレガシーのひとつである「オープンスタジオ」とツアーを開催することに。
ツアーの案内役を務めたのは、建築家ユニットCHAの原﨑寛明さん(建築家)と、デザイン・編集を専門とするvoidsの岡部正裕さん(アートディレクター、グラフィックデザイナー)。このビルの“住民(入居者)”をよく知る二人のそれぞれのガイドにより、トキワビルの全13室のオフィス/スタジオを訪問するツアーになりました。
多彩なクリエイターにまとまって出会えるのは、トキワビル/シンコービルならではの体験です。それぞれの部屋では活動を伝えるクリエイターと、訪問したツアー客が、互いの創造性を交換し合うように対話を続ける姿が印象に残りました。昨年のツアーに続き、今年も参加者を案内した原﨑さんにお話を聞きました。
「とても短い準備期間でしたが、入居者同士で協力し、見どころたっぷりのツアーにできたのではないかと思っています。お客さまもとても熱心に、それぞれの専門性をもつ入居者たちに話しかけていましたね。入居者共有スペースの311号室には、入居者の『活動紹介ボード』を展示する企画も実施しました。ツアーと展示のいずれも、お客さまだけでなく自分たち入居者にとっても、お隣さんの近況をうかがえる貴重な機会になったと感じています」
「OPEN! MY BOOK」
泰生ポーチの1階で開催された「OPEN! MY BOOK」は、本にまつわるトークセッション、その場で ZINE を制作できるワークショップ、本の展示などのプログラムでした。
企画者のひとりで、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボが運営するソーシャルグッドオフィス「さくら WORKS<関内>」のコミュニティマネージャーを務める姜 美宇(かん みう)さんは、「OPEN!MY BOOK」を通して、 参加者が互いに価値観を受け取り合う機会が生まれたと話します。
「今回はトークやワークショップを介して、『創造性と創造性の交換』を目指しました。前半のトークは『まち』をテーマに本を書かれている是枝さん・日比野 さんと、台湾にルーツのある張さんに、横浜・台湾の多様な文化について話していただきました。参加者からは『もっと横浜・台湾のことを知りたい』という声もありました。後半は本や写真、ゲームを制作している学生クリエイター5名と、『自らつくる』ことをテーマに座談会を開きました。彼らには当法人が運営する『さくらハウス』で、ZINE作成のワークショップも開催していただきました。
じつは私は2022年開催の関内外OPEN!14をきっかけに、まちづくりに関わるようになったんです。今年の関内外OPEN!15が終了した後も、企画に携わった方や参加者と継続的に連絡を取っていて、今後の展開が非常に楽しみです」
「屋上の気持ち」
泰生ビルに入居する設計事務所、オンデザインパートナーズの松井勇介さん(他共同企画:(同)安原、西田、(co_valley)清水)らが企画したのは、泰生ビルの屋上をひらく「屋上の気持ち」。何もない「屋上」に惹かれ、見えない魅力や心地よさを感じた思いや感情を、紙媒体に記録しその場に残そうというプログラムでした。
ふだんは公共建築の設計に携わることが多いという松井さんは、オンデザインパートナーズのオウンドWEBメディア「BEYOND ARCHITECTURE」で、屋上に関心を寄せる異業種のメンバーとともに「屋上考現学」に取り組んでいます。「学生のころから、屋上でのんびりする時間が好きでした。一方で屋上は、建築的に語られていないことが多い。屋上考現学では、屋上の空間性から考える時間の移ろいや、都市にまつわるあれこれをリサーチしています」と松井さん。
これまでは自分の言葉で語ることが多かったという屋上を、関内外OPEN!の機会に訪れた人たちに、率直に感じたことを語ってもらいたいという思いから、この企画が立ち上がりました。当日の来訪者は100人近くに及んだのではないかと、松井さんは振り返ります。
「なかでも『屋上で寝たい』という言葉が、印象に残っていますね。ひらかれた場所だからこそ周囲の環境をダイレクトに感じることは屋上の魅力であり、特徴の一つです。当時も気持ちのよい気候だったので、実際に寝ている人もいて。泰生ビルでは1年ほど前から『泰生オープン』という企画もやっています。これからやってみたいのは、ギャラリーのような空間として屋上を使うこと。写真展とか、集めた言葉の展示もしてみたいですね」
今回は「関内外OPEN!15」にて、泰有社のビル群で開催された4つのプログラムを、写真を中心にレポートしました。
「道」や「屋上」など、クリエイターやアーティストたちの創造・想像をかきたてる場が、関内エリアにはたくさんあります。これからも大小さまざまな試みが、この地域で生まれ育っていくだろうと期待が高まる1日になりました。
取材・文:及位友美(voids)
写真:中川達彦 ※除く