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若手建築家ユニットが考える、まち・暮らし・商いとは?
横浜信用金庫弘明寺支店交流会「弘信会」レポート

泰有社が本社を構えているのが「弘明寺かんのん通り商店街」。全長312メートルに及ぶアーケード通りを擁する活気あるこの商店街にも、空き店舗が増えている。
 
建築設計事務所「AKINAI GARDEAN STUDIO」を構え、シェアショップ「アキナイガーデン」を運営した梅村陽一郎さん、神永侑子さんの2人が空き店舗活用のアイデアをシェアするワークショップを横浜信用金庫弘明寺支店の「弘信会」で開催。その様子をレポートする。

まちで暮らす、働く

横浜信用金庫弘明寺支店が主催する「弘信会」は、行員と商店街で働く人が集まる交流会だ。冒頭で、横浜信用金庫弘明寺支店の弘信会会長も務める泰有社・水谷浩士からのあいさつがあった。この日は梅村さん、神永さんのレクチャー、ワークショップと、食事を交えた親睦会の2本立てのイベントだった。

主催を代表して泰有社・水谷からのあいさつがあった

梅村さん、神永さん自身も商店街で暮らしながら、泰有社の水谷マンション1階で、シェアショップ「アキナイガーデン」を運営してきた。3階には自宅兼建築設計事務所「AKINAI GARDEN STUDIO」を構えており、この夏は2階にも新たな設計事務所を開く予定だ。そんな2人が横浜信用金庫行員や商店街組合員に向けて、空き店舗の活用のアイデアをシェアしていく。レクチャーは神永さんのお話から始まった。

左から神永さん、梅村さん

「たとえば、1カ月分の家賃が27万円の空き店舗があったとします。若手で資金がなかなか用意できないけれど、お店をやりたい人がいたとしますよね。その際に『誰かと一緒に借りれば家賃を払えるかもしれない』という可能性をお話しします」
 
2024年5月まで営業していた「アキナイガーデン」は、3坪程度の空間にキッチンやカウンターを備え、軽飲食や販売ができる場所になっていた。自分の店をもちたい人たちが家賃や時間帯、曜日を分担して「日替わりオーナー」として出店。スパイスカレー食堂、焼き菓子販売や無農薬野菜のマルシェなど個性的なショップが出店した。
 
アキナイガーデンのキーワードは「住み開き」と「商い暮らし」。本業ではまちの人と接点をもつことが少ないという神永さんは、「店に立ったりワークショップを開いたりすることで日常の喜びや、『住まい』と『まち』の間の境界線がなくなっていく感覚をもち始めた」と言う。
 
神永さんは、働くことと暮らすことがどうまちに根付き、まちを動かしていけるのかに関心があると話し、梅村さんにバトンタッチした。

弘明寺で始まっている新しいライフスタイル

梅村さんは、弘明寺で新しいライフスタイルを実践している人「ぐみょうじん」の実例をシェアしていく。
 
一つめの例は水谷ビル4階にあるフォトスタジオ「Studio neutral」。フォトグラファーの井上秀兵さんと倉本あかりさんが運営しており、家族写真などのポートレート撮影を受け入れながら事務所として活用している。もともと梅村さんと知り合いだったそうで、その縁で弘明寺にフォトスタジオを構えたそうだ。
 
もう一つは泰有社本社もあるGM2ビル4階の「ニューヤンキーノタムロバ」。入居者がクリエイティブ活動に集中できる1年間限定のシェアハウスだ。入居者は「ゼロフェス」というイベントでその活動の成果を発表している。

2024年の「ゼロフェス」開催中の様子

梅村さんは活躍する弘明寺の人たちを見て、「まちなかで活躍する人や新しいコラボレーションが偶発的に起きることに期待している」と自身のレクチャーを締めた。
 
神永さんは「商い暮らし」を続けてきた実感をこう話す。
 
「それぞれがもっている暮らしの輪郭が重なりコミュニティができていくことがあると思っています。そういうことを造語で『プライベートリレー』と私は呼んでいます。絵本『スイミー』のように、個人は小さくても、そのつながりを丁寧につくっていくことにまちの未来があるように思っています」
 
2人のレクチャーは商店街の人たちに新たな視点をもたらす時間になった。

「どんなお店がほしい?」。シェアショップを考えてみる

レクチャーが終わって、ワークショップの時間に。商店街に家賃27万円の空き店舗があったとき、どんなシェアショップが商店街にあってほしいか参加者が考えていく。時間が20分ほど与えられ、参加者がテーブルごとにざっくばらんに雑談する。

会場で配られたワークシート。40平米くらいの空き店舗を3つのお店でシェアすることを想定し、業態や家賃負担の割合も考えてみる
2人もテーブルを回り、話し合いに参加した

話し合いが終わると、各テーブルで話し合ったことを代表者1人が発表していく。弘明寺で日々暮らし、仕事をしている人の実感がこもった意見が続々と出てきた。
 
「あったらいいなと思うのがお弁当屋さん。でもそれだけでは家賃27万に届かないだろうと話しました。だから夜は居酒屋を営業して、働いている人にお金を落としてもらい、その勢いで家族に買って帰るお土産やお菓子なんかが売っているといいと思います」
 
「平日午前中は高齢の方が集い、放課後の時間は大岡小学校の子どもが立ち寄れる駄菓子屋さんやガチャガチャコーナーがあるといいと思います。あとは保護者同士が息抜きできるようなコーヒーショップとか。まちの方たち、子どもたちが交流できる場所があったらいいいですね」
 
中には、商店街で働く人と行員ならではの意見も。
 
「こちらの班では、商店街のセレクトショップを開き、その魅力を発信できるお店にしたいという話が出ました。壁には各店舗のチラシなどを置ける広報スペースがあるといいと思います。あと、ぜひ横浜信用金庫のATMや出張所も出して気軽にご相談いただきたい」
 
泰有社・伊藤康文も参加のひとり。テーブルで出た話し合いの結果をシェアした。

「こちらの班ではスペースを3区画に分けたときに家賃負担で喧嘩になるのではないかと話しました。商店街側に面しているほうが売り上げはよくなる。だから場所で分けずに時間で分けようとなりました。だから、平日昼間はコワーキングスペース、夜はバーカウンターとか。時間を一番長く使う人が家賃を多く負担するのが現実的だろうと話しました」
 
さまざまな意見が出るのを聞いて、梅村さんも「自分たちの商い暮らしの参考になりました。ありがとうございます」と笑顔に。それぞれの考え方や暮らしへの思いがリレーされていくイベントになった。

取材・文:中尾江利(voids)
写真:大野隆介

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