2024年1月に関内桜通りにある古民家「さくらハウス」(現CHECHEMBO)でオープンしたインド料理のお店「mint deli」。泰生ポーチフロントでの臨時営業も経て、2025年5月からトキワビル1階の「Bar HUG」の昼間の時間帯に間借りをするかたちで再スタートすることになった。かつては大手食品メーカーに勤め、カレーの開発などに携わっていた小林大輔さんと小林敦子さん(以下、大輔さんと敦子さん)ご夫妻に、どのような経緯で関内にお店をひらくことになったのか、そして「体が喜ぶ」カレーへのこだわりを伺った。
食品メーカーでの経験から、インド料理の世界へ
「小さい頃は祖母が料理をする姿を見るのがすごく好きで、食に関する仕事がしたかった」と話す敦子さん。大学では食物学を専攻し、栄養士の免許を取得。その後、千葉県の実家の近くに研究所がある食品メーカーに就職し、カレールーの開発研究をおこなった。

しかしカレーの開発はできても、スパイスを調合するのは研究所内の別の専門グループ。「スパイスを自分で組み合わせてカレーを作ってみたい」という思いから、インド人の料理研究家が主宰する料理学校へ通いはじめる。インド料理の世界に魅了され、会社を退社。料理学校のクラスに通い詰めたのち、ご自身でインド料理教室をひらくようになった。
一方で、大輔さんのご出身は神奈川県横須賀市。「海あり山ありのなか、新鮮なものに囲まれて育ちました。親が料理上手だったので、食べ物に興味を持つようになり、レストランでアルバイトをする機会も多かった」と当時について話す。

大学では農学を専攻、卒業後に同じ食品メーカーに就職。研究所のカレー開発グループに配属され、そこで敦子さんに出会った。結婚し、敦子さんが退社してからも、商品企画やマーケティングにより人や場所を「つなぐ」仕事、さらには海外に向けたカレー商品の開発などを手がけた。
2012年から2020年にかけての8年間は台湾にご家族で駐在、日本のカレーをより美味しく食べてもらう活動を幅広く展開した。敦子さんは台湾でもインド料理の教室、ケータリングを実施。カレーだけでなくインドのお菓子やお惣菜も人気だったそうだ。
日本に戻ってきた2020年は、ちょうどコロナ禍が始まるタイミング。「50歳くらいになったら、自分たちの作ったカレーを食べてもらうような仕事をやっていきたい」と話していたこともあり、ほどなくして大輔さんも会社を退社、お店の開業に向けて準備をすることになった。
2023年夏からの半年間、横浜市西区の藤棚一番街にあるコミュニティスペース「藤棚デパートメント」のシェアキッチンで、週1日のテスト営業を実施。その後、知り合いの紹介で関内桜通りの古民家「さくらハウス」(現CHECHEMBO)で営業がスタート。2024年1月に本格的に開業した。2025年の2月から、隣のとなりの「泰生ポーチフロント」に移転、3ヶ月間の臨時営業をおこなった。そして、お客さんからの紹介で、現在営業している「Bar HUG」のマスターとオーナーに出会う。敦子さんは、もともと店前を通りがかるたびにお店の雰囲気に強く惹かれていたのだそうだ。

大輔さんは「お話をするなかで、オーナーさんもカレーが大好きで、ご自宅でスパイスからカレーを作るほどこだわりのある方ということがわかって。『昼間の時間帯が空いていて、貸し出そうかということをちょうど考え始めたところだった。夜はBAR、昼間はスパイスカレーというのは雰囲気がマッチする』と言ってくださり、移転することになりました」と話す。
体思いの、軽やかな本格スパイスカレー
mint deliのキャッチコピーは「体が喜ぶ やさしい味 スパイス香る 本格カレー」。
「インド料理はこってりしていて重たいというイメージがあったけど、こんなにストンと体に入って、軽やかで胃がもたれないインド料理があるんだ」「食べたあとの体の調子が良い」と台湾の方やお年寄りにも評判の敦子さんのインドカレー。こだわりについてこう語る。
「旬の素材、その季節に採れる野菜をたくさん使っています。あとは、油っぽさがのこらないこだわりの米油を使用しています。ニンニクや生姜も風味が良いので日本産を使用し、消化に悪いニンニクの芽の部分は全てとっています。お腹にもたれる豆のカレーを作るときは、インドのお母さんが家庭で必ずするような工夫ですが、お腹のガスを抜く役割をするスパイスを必ず入れています」

さらに注目なのが、カレーの付け合わせのお惣菜「サブジ」。
季節の野菜を、油とスパイス、それから野菜自身の水分だけで蒸し煮にするインドの家庭料理。敦子さんが「じつはもともとサブジ屋さんをやりたかった」と言うほど、こだわりの逸品だ。
スパイスカレーのランチプレートは、今週のお肉のプレート「Aプレート」(900円・税込)、今週のベジのカレーのプレート「Bプレート」(900円・税込)、そしていちばんのおすすめAB両方のカレーを味わえる「Cプレート」(1,000円・税込)の3種類。毎週、曜日限定で提供しているキーマカレー(水曜)やチキンビリヤニ(金曜)も人気メニューだ。
ベジタリアン(Veg)もベジタリアンでない人(Non-Veg)にも対応でき、また今日の自分の体調に合わせてメニューを選ぶことができる。両方を味わえる「Cプレート」は辛さのバランスや両方を食べることでより美味しくなるような組み合わせを毎回考えて提供しているのだとか。
大輔さんは「お肉のカレーに比べて魅力的ではないと感じる方が多いかもしれませんが、豆や野菜のカレーもこんなに美味しいのかと感じてもらえたらうれしい」と語る。スパイスと油の使い方でバリエーションがぐんと広がるのだそうだ。
店名にもある「ミント(mint)」は、インド料理ではかなり使用されるハーブだそうで、ペパーミントを入れたトマトチキンカレー、じゃがいもと合わせたサブジなどもメニューにたびたび登場する。ミントの色をあらわす黄緑色も、看板などで目立つmint deliのイメージカラーだ。
最後に、関内の魅力と今後の展望ついてお話を伺った。
都会でありながら、「コミュニティ」が濃い
もともと官公庁街の静かで都会的なイメージを持っていたという大輔さん。実際に関内でお店をひらいてみて、地域のつながりの濃さに驚いたのだそうだ。
「下町人情のようなものがあって、相手のことを考えてくれて、ご縁をつないでくれる方がたくさんいらっしゃるので、困っているときに助けてもらえることも多い。これからは我々がそういう役割になっていけたらいいなと思っています」
周辺のお店の方々ともよくお話をされる敦子さんも、それを日々実感していると話す。
「こんなに都会なのに、人と人との関係がぎゅっと近くて濃い。それがすごく面白いところだなと思います。独特ですよね。あたたかくて、古き良き町の感じがします」

今後について敦子さんは「料理教室もまた再開したいです。また、いまはランチタイムにぱっと食べられるワンプレートを基本にしていますが、お店では普段出せないような手間のかかる料理も、ケータリングやイベント、料理教室などでお出しできるような機会があったらいいなと思っています」と話す。
大輔さんは「『フードデザイン』という視点から、例えば食育や子ども食堂への協力など、食に関して地域でもさまざまな活動をしていきたい」と語る。
最近はBar HUGの常連さんが「昼はカレーが食べられるんだ」とmint deliのカレーを注文、mint deliのカレーを食べた方が「夜も来てみようかな」とBar HUGに行くなど、昼と夜の相互のつながりも増えてきている。音楽好きの大輔さんは、Bar HUGのマスターとライブイベントの企画もしているのだとか。今後のお店同士のコラボレーションにも注目だ。
PROFILE
小林大輔[こばやし・だいすけ]、小林敦子[こばやし・あつこ](mint deli)
食品メーカーを退社後、2024年1月に夫婦でインド料理のお店「mint deli」を関内で開業。良質な素材を使い丁寧に手作りをして『本格的だけど食べやすい』『毎日食べても体が楽』『食べると元気になる』と感じていただけるようなスパイスカレーやサブジなどをご提供しています。
営業時間:平日11:00〜15:00(土日祝お休み)
公式Instagram:@mint_deli_yokohama
取材・文:小林璃代子(voids)
写真:大野隆介