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泰生ポーチ
入居者ファイル#57
松本郁里さん(株式会社横浜インテリアサポートセンター)

「インテリアコーディネーター」の資格を持ち、お客さまのリフォームやインテリア、収納の悩みに寄り添う松本郁里(まつもと・いくり)さん。2024年、「株式会社横浜インテリアサポートセンター」を設立した。横浜・関内にある「泰生ポーチ」には、同年11月に新事務所を構えた。これまでのキャリアや展望を伺った。

インテリアコーディネーターとは?

「インテリアコーディネーター」とは、快適な住空間を作るために、住まう人へ適切な助言や提案を行う専門職だ。松本さんのお客さまは、一般の方から事業者まで幅広い。お客さまの要望に合ったインテリアを提案したり、不動産物件や宿泊施設のPR写真の魅力を引き立てるホームステージングを手掛けたりと、住空間のことを何でも相談できるプロフェッショナルだ。

オフィスでインタビューを受ける松本さん

一例として、家のリフォームを考えている人が住宅会社からリフォーム費用の相見積もりを取ったとする。しかし、松本さん曰く、各会社で書式が異なる見積書を一般の人が比較することは難しいそうで、専門用語が入り交じる住宅会社の説明に不安や疑問を感じる人も少なくないそうだ。そんな中、松本さんは公平な立場でアドバイスを行ったり、お客さまと住宅会社をマッチングしたりなど、二者の間を取り持つ翻訳のような役回りを引き受ける。
 
そういった一般の方向けの仕事と同時に、不動産オーナーと連携した民泊のプロデュースも手掛けている。カーテンや照明、室内に飾るアート作品を変えるなどの細やかな工夫で、ウェブサイトやSNSに掲載するPR写真を、“映える”ようにディレクションするのもやりがいのある仕事だという。松本さんは「ビフォーとアフターでどこかどう違うのか。間違い探しのようだけれど、インテリア一つで雰囲気が変わります」と話す。

松本さんが手掛けた仕事の一例。群馬県渋川市伊香保町の民泊のビフォー *
こちらがアフター。変えたのは座卓や掛け軸といったものだけだと言う *

松本さんは新卒で住宅設備機器メーカーに就職。インテリアコーディネーターの資格を取得し、住宅会社に転職した。育児に専念するために離職した時期もあったが、フリーランスとして徐々に仕事を再開し、住宅会社に再就職。そこで、リフォームの現場監督や営業職など、住宅に関わるさまざまな仕事の経験を積んだ。子どもの巣立ちも近づいた頃、「フリーになって自分が好きな仕事をしよう」と独立を決めたと言う。
 
「『リフォームで高いお金を払わされてしまうかも。誰に頼れば良いのか分からない』と感じている方を多く見てきましたし、一方で、腕の良い職人を抱える工務店が高齢化や後継者不足でクローズする様子も見てきました。インテリアコーディネーターとして、そんな状況を変えたいと思いました。そして、私は横浜生まれ・横浜育ち。だから『独立するなら横浜で』と考えていたんです」

関内は青春の場所。ここをギャラリーとしても開きたい

松本さんは会社経営の傍らで、同業者が集まる業界団体「神奈川インテリアコーディネーター協会」の会長も務める。泰有社が持つ物件との出会いは、協会事務所の引越しがきっかけだったそうだ。会員の知り合いを通じて、泰有社が所有する泰生ビルにあるシェアオフィス「さくらWORKS<関内>」を借りることに。その時にふと松本さんの目に留まったのが、泰生ビルの向かいにある泰生ポーチだった。
 
「協会の事務所探しで、偶然に泰生ポーチを知って良い物件だと思っていたのですが、ずっと満室状態だったのでウェブサイトをチェックしていたんです。ある時、入居者募集の情報が公開されていることに気づいて『空いているなら借りてしまおう!』と急いで契約しました。
 
何よりも、自分で自由に部屋をリノベーションできるのが魅力でした。クリエイターやアーティストの方と繋がりを持てたらいいなと思っていましたし、最初の就職先も関内に支社があったので、青春の場所に戻ってきたという感覚です」
 
部屋の壁は、大分県の老舗企業「株式会社丸京石灰」の高品質な石灰を知人らの手を借りて塗ったそうだ。また、天井からはピクチャーレールが垂れており、ファブリックを使用したアートパネルが飾られていた。松本さんは事務所をアートギャラリーとしても開いていきたいと話す。

事務所の様子。「部屋をすぐにギャラリーにできるように」と、インテリアは最小限にして松本さん自身の趣味は出しすぎないようにしているそうだ

「この部屋を借りてすぐに、関内外エリアを拠点とするクリエイターの文化祭のようなイベント『関内外OPEN!16』で、隣室に入居していた、まちづくり関係の方と共催でイベントを開きました。そこでは『関内外OPEN!16』のメインビジュアルを制作したデザイナーの作品を展示しました。その時に、ここにはこんな素晴らしいつながりがあるのだ、と感じました。私は民泊のプロデュース業でも、インテリアと共にアートを飾ることを提案しているんです。かつて床の間に季節の装飾を行うのが当たり前だったように、アートを身近にしたいと思っています」
 
デスクは簡単に折りたためる物を用意してシンプルな空間に。この空間で、松本さんの知人が主催するワークショップやスマホ教室などのイベントも開いているようで、入居から約1年でこの部屋をフル活用していることがうかがえた。

4階は自然光がよく入り、アート作品や色見本を見やすいことも魅力だそう。「インテリアにアートは欠かせない」として、鎌倉市内にある画商と連携しているのだという

住まいが整うと、人は幸せになる

「部屋が使いづらい」と感じた時に大規模なリフォームが必要なのか、簡単な模様替えや修理で済む話なのか? 松本さんは「住宅会社に相談することに心理的ハードルを感じたら、まずは私のようなインテリアコーディネーターに相談して」と話す。
 
「インテリアや住まいが整ったり美しくなったりすると、皆さんが幸せそうにされるんです。そういった幸せを届けられるのは、本当にやりがいがある仕事ですし、楽しいと思いますね。工務店の職人の方はプロフェッショナルだから、一般の方に向けた分かりやすい言葉遣いが難しいこともあります。だから、子育て経験者や生活者としての目線を汲みとって伝えるためにも、インテリアコーディネーターをもっと活用してほしい。それが私の夢ですね」
 
インテリアの世界で30年以上のキャリアを持ち、手掛けた住まいは1,000軒を優に超えるだろうと話す松本さん。それでも取材の中で「インテリアはもう、なんでも楽しいですよ!」と、溌剌とした笑顔を見せてくれたことが印象に残った。

PROFILE

松本郁里[まつもと・いくり]
横浜生まれ。住宅設備機器メーカーを経て、住宅会社でインテリアコーディネーターとして勤務。出産を機に子育てに専念。子どもの成長に合わせてフリーランスのインテリアコーディネーターとして復帰。2024年に(株)横浜インテリアサポートセンターを設立。インテリアコーディネーター、二級建築士、整理収納アドバイザー1級などの資格を持ち、内装やリフォーム、収納計画などの提案・アドバイスを行う。

取材・文:中尾江利(voids)
写真:森本聡(カラーコーディネーション) *を除く

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