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GM2ビル

アートスタジオ アイムヒア
対話で出会いをデザインし、社会との関わりを考える
Aki Iwayaさん インタビュー

アーティストの滞在制作や展示の場である弘明寺GM2ビルの「アートスタジオ アイムヒア」。「ACYアーティスト・フェローシップ助成」で2025年度の助成を受けて2025年12月に同所に滞在したAki Iwayaさんは、翌年の1月10日に「対話の場」を開いた。その場のつくり方や「コレクティブ」のとらえ方、弘明寺の印象などについて聞いた。

アートとしての“対話”

“人が集まること”や“対話”について探求し、日本やインドネシアで「オルタナティブスペース」をリサーチしたり、自身でも運営を手がけたりしてきたIwayaさん。横浜では弘明寺のほかに、黄金町と新横浜にも滞在し、各地の拠点に集う人たちと情報交換してきた。
 
「いろんな場所をフラフラしながら、情報や人を紹介して面白いことをやりたい人を焚きつける、ネットワーキングと一般的に言われるようなことをやってきました」。肩書を付けると、“アート”と“アクティビスト”をかけ合わせた“アーティビスト”だ。
 
「僕はアートというより、人とどう関わるか、人とどう適切な距離をつくるかといったことに興味があります。そのツールとしてのアートが、僕にとって生きる技法という感じなんです」

アートスタジオ アイムヒアの室内

そんなIwayaさんが「対話=アートと言い張ることで、他人と出会う方法を提案できないかなと思って」と企画したのが、横浜での活動のひとつの締めくくりである「対話の場『ない横浜、演じてるあいだだけある横浜?』」。「場を作るということ」や「アートとあなたの生」といったテーマごとにセッションを設け、これまで横浜で出会ってきた人たちとコタツを囲む。

社会の一員としてできること

対話の場では、ファシリテーターとして「こういうマインドを持っていると対話が面白くなりますよ」と導くハンドアウトを配布する。なかでもIwayaさんが大切にしていることのひとつは「沈黙を埋めないこと」。
 
「沈黙に耐えられなくなって、何か良かれと思って『◯◯さんどうですか?』とか言うことはやめてくださいと言っています。なぜならそれは“内的”対話が発生している空間だから。沈黙が気になったら、自分自身に注意を向けてほしいんです」

もうひとつは、自分もその集まりの一員であるという意識を持ってもらうこと。
 
「先日美大に呼ばれて話をしに行ったときに、『人の集まりって言葉を聞いて何をイメージしますか』とアンケートをとったんです。そうしたら、全員その集まりの中に自分を入れなかったんですよ。自分が観察しているようなポジションをとるんですね。
 
でも社会に自分が含まれていない前提だったら社会は変えられない。僕は、絶対に自分も入っているし、世の中に対して責任があると思っている。影響も与えているし、自分からポジティブに変えられるんじゃないか、そういうことについて考えてもらいたい。
 
このアートスタジオ アイムヒアは面白い場所ですが、社会の中でとてもマイノリティじゃないですか。それでもマイノリティを含めて社会だから、その社会を皆がどう考えているのかということは、ここを出た後も感じてもらいたいんです」

2019年にインドネシアのジャカルタでGudskulというコレクティブと行った「日本の社会課題と文化芸術の応答」についてのレクチャーイベント(撮影:Julia Sarisetiati/ruanrupa) *

さらに、記録の方法も模索するIwayaさん。「メインは現場で記録はおまけみたいな、そういう考え方はちょっと違うのではないかなと思っているんです」と語る。
 
「ドキュメンタリー映画や記録映像を撮ってきたので、場の記録の方法に違和感というか、もう少しできることがあるんじゃないかとずっと思っていました。お金や時間の制約とか、いろんな理由があるとは思うんですが、ほとんどの人は現場を目撃できないから、記録の方が人にふれるんですよね。僕はこの機会に対話を記録することをアップデートしようと思って。
 
今しゃべっていることのほとんどは意味に還元されると思います。ですが、目線を外しているとか木目とか、このコタツの熱さとか、このスタジオに音が反響する感じとか、意味じゃないところも明らかに対話に影響を与えている。その流出をどれくらい防いで保存するかということをやりたいと思っています。
 
4人のカメラマンと、オープンダイアローグという対話の専門家が入っているので、僕にはないアイデアを出してもらえたらいいですね」

Iwayaさんが寄稿した『Da+: ロバと芸術生産 (A CRITICAL JOURNAL ON CONTEMPORARY)』

対話の場において、工夫できることは山ほどある。「これも話し出したらキリがないですけど、例えば自己紹介するかしないか、残り時間を教えるか教えないか、休憩をどれくらい入れるかとか、パラメーターがすごくたくさんあるんですよ」。一見繊細で難しそうだが、Iwayaさんはそのプロセスや記録の仕方を探求しつつ、一方で「対話の場自体は本当は誰でもできるはずなので、自分でもこれをやりたいなと思ってくれたら一番嬉しいですね」と話す。開かれた場であり、アート関係者に限らず対等な立場で話すことが重要なのだ。

「人」が先にあるコレクティブ文化

Iwayaさんの実践を語る上で欠かせないのが、「コレクティブ」という文化だ。自身もアーティストや医師、脳科学の専門家、また肩書を持たない人ら国内外のメンバーと「VS? Collective」を発足している。
 
「僕にとってのコレクティブの定義は、自発的に生まれて、あまり目的を固定しないで活動している団体。有機的な感じで、加入とか脱退は多分ないんです。存続そのものが目的ではないので、その時に関わっている人たちが、その方向性に興味を失ったら自然に瓦解する。そこから派生してまた別のことをやりたかったらやればいいし、それがまたコレクティブと言われる時もある。細胞分裂みたいに捉えています」
 
インドネシアの「ルアンルパ」という老舗コレクティブや、「ライフパッチ」というコレクティブの活動を間近に見てきたIwayaさん。刊行予定の著書『コレクティブ&オルタナティブスペース-もうひとつの現実の作り方』では、浜松や北海道の福祉団体、台湾の“電子政府”の人たちの活動についても紹介している。「人が集まって、やりたいことや不満があると、お互いに知恵や身体や時間を持ち寄ることによって、大きな政府や上からの垂直的な力ではつくられないような新しい選択肢がつくられるんですよね。僕もやってきたことだし、あなたもできる、ということを書いています」

2023年にインドネシアのジョグジャカルタで、ライフパッチのGegerと「コレクティブカルチャーの国内外での認識のギャップ」について話し込むIwayaさん(撮影:竹村まさと) *

横浜・弘明寺の印象について聞くと、「コレクティブと一緒で、再現性がないですよね」と語る。
 
「大抵、特に資金もあまりない中で地域のスペースを運営しているような人たちにとって、不動産屋って“敵”に近い存在なんですよ。家賃の交渉がどれだけできるか、無償利用の可能性があるのかといった話になりやすい。でもここは全然違う。むしろ共犯のような感じで面白いことをやっていて、それは再現性がないなと思いました。
 
人間がベースになっていると、人間って移動はできてもコピーできないじゃないですか。ここに最初期にいたアーティストや泰有社の伊藤康文さん、泰有社の人たちの化学反応でできたエコシステムだと思います」
 
弘明寺の人たちと話していて、気づいたこともある。「例えば大学で地方から東京に出たら、地元に帰ってくる人ってそんなに多くないと思うんです。でも弘明寺にわざわざ帰って来ている人がけっこういる。それはすごいと思います。なんか帰ってきたくなるんだなと思って」
 
自身は「死ぬまでここにいろって言われたら窒息しちゃうタイプ」で、「移動してネットワークをつくることで、それを防ぐことができる」そうだ。ネットワークに横浜・弘明寺が加わった今後、そこから何が生まれるだろうか。

PROFILE

Aki Iwaya
アーティビスト。人が集まること&対話(沈黙/非言語含む)を探究し、人類学的なスパンでの文化芸術と近代の社会的現実とのあいだの新たな関係性を提示する。 寺子屋シェルターを住み開きしながら、アーツカウンシル東京の美術・映像及び文化芸術による社会支援分野調査員を務める。以降、防災・メンタルヘルス事業及び映像制作、イベントや場を企画運営。また、「VS?collective」として海外コレクティブとの協働やネットワーキングを行う。早稲田大学文学研究科現代文芸コース修了。『自分の「声」で書く技術-自己検閲をはずし、響く言葉を仲間と見つける』英治出版(企画・監訳)、『コレクティブ&オルタナティブスペース-もうひとつの現実の作り方(仮)』刊行予定。2025年度 ACYアーティスト・フェロー。

取材・文:齊藤真菜
写真:大野隆介(*以外)

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アーツコミッション・ヨコハマ(以下ACY)の助成を受け、3部作《ENCORE》の2作目《ENCORE II - Violet》制作に向けたリサーチを行った。小松川事件、関東大震災、朝鮮人虐殺。植民地主義がもたらした暴力と個人の痛みを回復するルートを探して、ユニさんは横浜で数々の手がかりに出会っていく。