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泰生ポーチ 入居者ファイル#27 岡部祥司さん

泰生ポーチ 入居者ファイル#27 岡部祥司さん

「泰有社」物件に魅せられた人々を紹介する「入居者ファイル」シリーズ。今回は、泰生ポーチに「株式会社アップテラス」「NPO法人ハマのトウダイ」として入居する岡部祥司(おかべ・しょうじ)さんにご登場いただきます。

泰生ポーチの最上階。まだ事務所として利用する人が少ない2013年頃に入居したのが、岡部祥司さんだ。これまで多くの事業を手がけてきた岡部さんに、横浜に来た経緯や現在もっとも力を入れているという「スキマデパート」についてお話を聞いた。

一貫した“面白さ”を求める姿勢

岡部さんは兵庫県生まれ。大学まで私立一貫の学校に通い、バスケットボールに力を入れていたという。兵庫県の代表になりインターハイまで出場する実力がありながらも、バスケットを続けていくことに迷いがあり、大学までできっぱり辞めた。経営学部だった岡部さんだが、就職先として選んだのは建設業の「竹中工務店」だった。「会社って、具体的にどんな感じかは入ってみないとわからないじゃないですか。面接する人の雰囲気とか、大学の先輩でなんとなく面白いと思う人がいたので選びました」。竹中工務店では1年目は関西だったが、2年目から横浜支店へ配属された。以来横浜での生活をスタート。経理や営業を担当したという。お得意先へ会いに行ったり新規案件を探したりと、初めての土地を見て回った。

岡部祥司さん

兵庫の親友や、仕事でつながりのあった中華街のオーナーから「青年会議所」を紹介されたという岡部さん。「『入らない?』と言われたんですけど、よくわからなくて(笑)。ただ、誘ってくれた人たちが言うなら面白いのかなと思って2004年に入りました。僕と同い年でも会社を経営している社長さんもいて、刺激になりましたね」。青年会議所のメンバーになったことが、転勤で訪れた横浜の地に多くの知り合いができるきっかけとなった。

2012年には、第61代の青年会議所理事長に就任。写真は、2012年横浜青年会議所の公開例会にて、コミュニティーデザイナーの山崎亮さんとの対談風景*

また、泰生ポーチに入居したのは青年会議所の先輩だった泰有社代表取締役の水谷浩士さんがきっかけだった。「横浜に事務所がほしいと思って探していたんです。水谷さんは何度かお会いしていて、『事務所使ってよ』と言われたのがスタートですね」。

泰生ポーチの一角

青年会議所の人々との関わりを経て、「竹中工務店にいるのではなく、自分で事業をはじめるのも面白いかもしれない」と思った岡部さん。約14年勤めた竹中工務店を退社し、2011年5月にウェブシステム制作を行う「株式会社アップテラス(以下、アップテラス)」を知人と共同で設立した。建築業から異分野での事業となるが、岡部さんは「建築業にいたけど、僕は建築ができない。ただ営業はできるので、ウェブシステム制作の事業でも扱っているものが変わっただけで、営業の仕事としては変わらないんです」と話す。

他業種間をコミュニティづくりがつなぐ

2014年11月、アップテラスの次に設立したのが「NPO法人ハマのトウダイ(以下、ハマのトウダイ)」だ。青年会議所で取り組んでいたまちづくりなどの事業を、引き継ぐかたちでスタートした。ハマのトウダイの代表的なプロジェクトのひとつが、株式会社オンデザインパートナーズとの共同事業「ハマのパークキャラバン」だ。規制の多い現代の公園を、本来の開かれた空間として活用しようとするプロジェクトで、人工芝やテントなどを持ち込み「防災キャンプ」や「アウトドアオフィス」などを実施した。

「ハマのパークキャラバン」のポスターが飾られた部屋

パークキャラバンをするうえで、キャンプメーカーに協力してもらうことを考えた岡部さんは、「スノーピーク」に相談した。「スノーピーク代表取締役会長の山井太さんが、新潟の青年会議所に所属していると聞いて、知人を通して紹介してもらいました。直接伺って、パークキャラバンのことをプレゼンしたら、面白いって言ってもらえましたね」。

「ハマのパークキャラバン」はグッドデザイン賞を2016年に受賞。また、関連して「仮設HUB拠点-まちの新しい挨拶」プロジェクトにて2018年にはグッドデザイン賞BEST100を受賞した

「ハマのパークキャラバン」での活動をきっかけに、スノーピーク・山井会長から岡部さんに声がかかった。これまでハマのトウダイでやっていたようなことを、「スノーピークビジネスソリューションズ」として事業を設立するという。2016年10月、岡部さんは同事業のエヴァンジェリストに就任し、立ち上げメンバーとなった。最初の仕事では、横浜DeNAベイスターズや崎陽軒、面白法人カヤック、相鉄などの企業に参加してもらい、テントのなかで会議をする「キャンビングオフィス」の映像を撮影したという。自然豊かな場所で話し合うことで、普段とは異なるアイデアや新たなつながりが生まれるのが狙いだ。

スノーピークのキャンプギアも事務所に置かれている

「実際に売り上げを出すためのビジネスモデルをどうするのか、いろいろ考えましたね。そのなかで企業の研修をキャンプ場で実施したり、オフィス家具としてキャンプギアを使えないかと考えたときに、竹中工務店でお世話になっていた企業に営業しに行ったんです。こうしたプロジェクトにどんな企業が興味をもってくれるか、これまでの経験で僕には想像ができたので」
 

またキャンピングオフィスの映像制作を「株式会社アマナ」に依頼。これを機にアマナの新規ビジネスのスタートにも関わることになり、2017年4月にはアグリゲーターに就任した。「儲けたいといった思いはあまりなくて。面白い人たちとつながりたい、面白いことをしたいと純粋に思ってやってきた結果だと思いますね」

あらゆる隙間を埋める取り組み

岡部さんがいまもっとも力を注いでいるのが、自動販売機ビジネスだ。ハマのトウダイの活動で知られることとなった岡部さんだが、NPOだったこともあり、活動をもっと拡げていくうえで収益化することに苦心していた。そんななか目をつけたのが、建設業として身近にあった自動販売機だった。「建築現場では、自動販売機を置かせてあげることで、飲料の売り上げを分配していました。そこで僕が空きのある不動産屋と自動販売機の会社をつなぐことで、コストをかけず収益を上げられるのではないかと考えたんです」。50台ほど設置できたことで、街中に多くの使われていないデッドスペースの存在を知った岡部さんは、自動販売機ビジネスに面白さを見出したという。

渋谷宮益坂で、フレグランスを自由販売機で販売*

そうした活動をするなかで、同じく自動販売機を使ったビジネスを展開している現「スキマデパート」代表取締役社長の芳屋昌治さんと出会った。お互いのビジョンが同じこともあり、岡部さんは2018年にスキマデパートの取締役として、事業に参画。スキマデパートという屋号もこの時つけたものだ。「自動販売機をはじめとして、世の中にあるいろんな“スキマ”を面白くできたらなと。まちの隙間だけでなく、流通の隙間や心の隙間なんかも埋めることができればと思っています」。

銀座で自由販売機を使った無人POPUPショップを運営*

人と人とのつながりを大切にする

こうした多くの事業に取り組んでいる岡部さんは、「一つの会社を大きくすることにはあまり関心がない」と話す。
 

「さまざまな業界の人の考え方や事業について知るのが面白いんです。なので特別な肩書は必要なくて『岡部』でいいと思っていて。常に自分が興味あることをやり続けることが、一番自分を表すことになるんだと思います」
 

人とのつながりを大切にするだけでなく、斬新なアイデアや、営業をベースとしたコミュニケーション力を武器に、次々と活動の幅を広げてきた岡部さん。自身を「チャラチャラしている」と話すが、初めて会う人に渡すために、鳩居堂の絵葉書を常に持ち歩いているという。「別れる時に手書きでコメントを書いて渡すんです。ギャップが生まれるので覚えてもらえるんですよ」と微笑む。こうした丁寧な人への接し方が、これからも多様な関係性をつくり上げていくのだろう。次に岡部さんの姿を見るのはどこなのか、楽しみだ。

PROFILE
岡部祥司[おかべ・しょうじ]
兵庫県生まれ。1997年私立甲南大学経営学部卒業。株式会社竹中工務店を経て、2011年株式会社アップテラス創業、代表取締役となる。2014年NPO法人ハマのトウダイ設立、共同代表になり、2016年株式会社スノーピークビジネスソリューションズ、エヴァンジェリストに就任、2018年には株式会社スキマデパート取締役となるなど活動は多岐にわたる。
自由販売機
https://sd-japan.co.jp/jiyuhanbaiki/
NPO法人ハマのトウダイ
http://www.hamanotoudai.com

取材・文:中村元哉(voids)
写真:森本聡(カラーコーディネーション)(*をのぞく)

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