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トキワビル
入居者ファイル#32
濵久貴さん・小澤亮太さん・渡部将吾さん(合同会社HOC)

「泰有社」物件に魅せられた人々を紹介する「入居者ファイル」シリーズ。今回は、トキワビルに入居する「合同会社HOC」の濵久貴(はま・ひさたか)さん、小澤亮太(おざわ・りょうた)さん、渡部将吾(わたべ・しょうご)さんにご登場いただきます。

何でもデザインする会社

トキワビルに入居するHOCは、デザインを軸としてさまざまなプロジェクトに携わってきた。社名はHama Ozawa Creatorsの略で、CEOである濵さん・小澤さんと、各分野のプロフェッショナルであるクリエイターが協働するあり方を示している。

設立は2018年。ランドスケープデザインやインテリアデザインを手がける会社に勤めていた濵さんと小澤さんが独立することを決め、渡部さんとともに3人でスタートした。泰有社の物件を選んだのは、横浜出身の濵さんと渡部さんが通っていた大学の研究室の先輩に紹介してもらったことがきっかけ。入居時には壁を取り払い、自分たちの手で壁を白く塗ってシンプルな空間を生み出した。

白を基調としたシンプルな空間。2部屋にまたがって、大きなテーブルが置かれているのが特徴的
玄関のたたきに小さく書かれたロゴがオフィスの“萌えポイント”

「僕たちはもともとランドスケープや建築が専門で、ただつくるだけでなく、なぜつくるのか、つまりブランディングの部分から提案したいと考えていました。幅広くクライアントのためにご提案できるように、2人で何でもできる事務所を立ち上げよう、ということになりました」と濵さん。3人ともデザインの知識がありながら、農大卒の小澤さん、建築学科卒の濵さん・渡部さんがそれぞれの持ち味を活かして、現在は商業施設やオフィスから、イベント、パンフレット、グッズまで、“デザインと付くものなら何でも”手がけている。

濵さん

走り続けた3年間

ブランディングから提案し、プロジェクト全体のストーリーをクライアントとともに考えていくこと。設立から3年、さまざまな仕事を手がけるうえでひとつの軸が確立した。「たとえばランドスケープと一口に言っても、その範囲は広いです。僕たちは世界の風景の基礎になるものとしてランドスケープをとらえています。風景をつくるためには、それ以外の仕組みも重要だと考えています」。

東急不動産本社ビル「渋谷ソラスタ」のランドスケープをデザインした際には、豊かな緑のなかでの新たな働き方を提案するプロジェクトブックを制作。また、間伐材を使用したピンバッジを社内に配布するなど、コンセプトをさまざまな方法で伝えた。デザイナーの渡部さんは、「システムやブランディングなど、通常であれば見えなくなってしまう部分を、具体的に見えるかたちで届けるのが自分の役目です。プロジェクトに関わる人全体に2人のコンセプトが伝わることで、ぶれずに進めることができますね」と語る。

屋上に庭園を設けたオフィスビル「渋谷ソラスタ」*
東急不動産が打ち出す「GREEN WORK STYLE」の一貫として制作したピンバッジ*

これまではデザインに軸足を置き、事業展開などは+αでの提案となっていたが、現在ではプロジェクトの始まりからアウトプットまでのパッケージで依頼をもらえることが多くなっているという。「この2年ほどは、みんな必死に走ってきて本当に大変でした。それが無駄にならず、いまやっと形になってきたところです。これからもデザインを軸に、そのときにできる最高水準のものを提供したい。チャレンジし続けるプロフェッショナルでいたいですね」。

渡部さん

多くの人が参加できる空間のために

さまざまなプロジェクトのなかでも3人の印象に残っているというのが、独立して間もなく手がけた千葉県柏市の「KIDIYS PARK(キッディーズパーク)」だ。これは、子どもたちが主体的につくり上げることを目指した1年間限定の公園。建築の足場に用いる単管でテントを組んだり、ブルーシートでガーランドをつくったりと、ホームセンターで買える材料を用いて、住民の手も借りながらプロジェクトチームの皆とともに3人でDIYをした。濵さんは、「会社でできないことをやりたいという気持ちが爆発したプロジェクトでした。ただ実際にはすごく体力的に大変だったので、やっぱり僕たちにはインドアの仕事が向いているのかな」と笑う。

公園の少ない柏セントラルの問題を解決するためにつくられたKIDIYS PARK*

コロナ禍においては、場所のデザインにも変化があった。「はっきりと変化を感じるわけではありませんが、空間の質が少しずつ変わっているのかなと思います。コロナ以前はできるだけ多くの集客を目指して場の設計をしていましたが、現在は一人で佇めるような、ソーシャルディスタンスがあってこそ豊かな環境をつくることが多いですね。例えばベンチも、従来なら膝を突き合わせる距離だったところを、ゆとりのある間隔で配置するようになりました。今後は、これまでとは少し違った集まり方を提案する空間が増えてくるはずです」。

最近は、利用者が好きなことにチャレンジできる“試行錯誤公園”として、川崎市麻生区に今年4月オープンした「nexusチャレンジパーク」や、長野県小諸市の公共空間を中心とした「こもろ・まちたねプロジェクト」など、公園を起点としたまちづくりにまで仕事のスケールを広げている。その際に意識しているのが、みんながニューノーマルに接することができるランドスケープを作ることだという。「ここ十数年で震災やコロナを経験して、公共空間におけるニューノーマルの試行錯誤がなされてきました。特に防災や有事の際のコミュニケーションの取り方について、子どもを含めた多くの人が日頃から触れられるようにすることが大切だと考えています」。

小諸・大手門公園にオープンした「こもろまちタネひろば」*

まずは体験することから

全員がお父さんでもある3人が生み出すデザインには、子育ての経験も生かされている。「子どもが生まれてから、公園などの安全対策には過剰な部分があることに気づきました。危険な要素を排除してしまうのではなく、危険を知らせるデザインを意識するようになりました」。たとえば少し高さのある遊具なら、遊び方を制限する手すりをつけるのではなく、地面に芝生を敷いておく。そうすることで、もし落ちてしまっても怪我をする可能性は少なく、次回からの学びにすることができるのだ。

最近はアウトドア施設のデザインを手がけることも多く、その際には火を使えるポイントを必ず設けている。「よく消防の方も言うように、火は体験していないのが一番危ないんです。ただ、最初に大人と触った経験があれば、次から自分で扱うことがあってもきちんと始末をすることができます。火や自然の危険も、まずは体験することで理解できるし、それをランドスケープや設計で示すことが僕たちの仕事だと思っています」。

小澤さん

小澤さんは、「これまで別々にやってきた仕事をワンパッケージで依頼してもらえるようになってきました。これからは少し余裕を持って、それぞれのプロジェクトに厚みをつくること、上質なものにしていくことに夢中になりたいです」と話す。

何にでもトライしてみる3人の精神は、ブランディングやデザインに対する考え方にもそのままつながっているようだ。さまざまなところに蒔かれた種は、今後どのように人やまちのあり方を変えていくのだろうか。

PROFILE
CEO / Designer 濵久貴[Hisataka Hama]
1984  横浜に生まれる
2009  関東学院大学大学院建築学専攻 修了
2010  フィールドフォー・デザインオフィス入社
2018  HOC設立
 

CEO / Designer 小澤亮太 [Ryota Ozawa]
1988  小江戸 川越にて育つ
2012  東京農業大学大学院造園学専攻 修了
2012  フィールドフォー・デザインオフィス入社
2018  HOC設立
 

Designer 渡部将吾 [Shogo Watabe]
1985  福島県いわき市生まれ
2010  関東学院大学大学院建築学専攻 修了
2010  金子設計入社
2019  HOC入社

取材・文:白尾芽(voids)
写真:森本聡(カラーコーディネーション)(*をのぞく)

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