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GM2ビル
 入居者ファイル #50 ガスさん・ふじまゆさん(ニューヤンキーノタムロバ・コミュニティビルダー)

一年ごとに入居者を募集し、4月で3期目を迎えたGM2ビル4階のシェアハウス「ニューヤンキーノタムロバ」(以下、タムロバ)。今回は昨年から継続して入居し今期はコミュニティビルダーを務めることになった、藤井麻結(ふじい・まゆ)さんと飯島大地(いいじま・たいち)さん(以下、ふじまゆさんとガスさん)の2人に、創作活動や住み心地について聞いた。

そこにある“物語”を想像して作品に

パートナーとして2人そろって昨年越してきたふじまゆさんとガスさん。ふじまゆさんはフリーランスのデザイナー・イラストレーターとして働きながら自身の創作活動を行い、ガスさんは廃材を使ったアートをつくる「再生家」という肩書きで活動している。2人の作品は、「アトリエ」と呼ばれる共有スペースや自分たちの部屋の前につくった制作スペースなど、タムロバ内のあちこちに並んでいる。

ふじまゆさんの作品《集合は、22:30》は、スマホ専用サイトにアクセスすると作品のバックストーリーを読むことができる。部屋の前に構えた制作スペースの中にも上にも所狭しと画材や作品が。

ガスさんの作品《マジシャン》

ふじまゆさんはシェアハウス経験者。縁あって自由が丘に住んでいたが、東京に住むことにも、おしゃれな街に住むことにも憧れはなく、日中出歩くのは苦手だったという。ずっと得意だった絵を仕事にしたが、自分の制作するものに対して「これでいいんだろうか、これで楽しいのかな」と思うようになっていたところに、自分の創作活動をしながら生きているガスさんと出会ったそうだ。

ふじまゆさん

「自分も作品をつくる人になりたいと思ったけれど、いざ展示の機会をもらって仕事以外でつくることに向き合おうとすると、自分は何を描きたいんだろう、自分は何者なんだろう、自分に表現できることはあるのかなとモヤモヤしていました。ひどいときは一カ月引きこもるような生活でしたが、家にいる間は変化がなかったので、その中で初めて外に出たくなって、散歩に出かけるようになりました。
 
家にいるときは周りが真っ暗でどこにいるかもわからなかったけど、皆が寝静まった後にひたすら外を歩いていると、徐々に日が昇って明るくなって、線路の端っこの鉢植えに咲いてる花や、誰かが忘れていった片方の靴を見つけて、いろんな人の人生があることを実感して。そこにある物語を想像するのが楽しくなりました。これまで気づかなかった、人間臭さや、そこにあるほんの小さな幸せにフォーカスして絵を描いていくようになりました」

ふじまゆさんとガスさんの部屋。在宅仕事のため、ここと共有スペースをフルに活用しながら切り替えている

タムロバを訪れた際、「ここなら自分の居場所として適しているかな」と感じたという。広い場所ができたことで、大きな作品も描くようになった。
 
「やりたいことに夢中で取り組んでいる人が多いので、悩みつつもとにかく手を動かしていかなきゃなと刺激をもらいました。今までパソコンと私しかない環境だったのが、理想的な日々になりました」

ふじまゆさんがYADOKARIのイベントのために制作した《mirror》

近くの人の存在を見つめることで、自分を見つめ直す

ふじまゆさんやタムロバの存在は、油絵や空き缶などの廃材を使った作品をつくるガスさんの作品にも着実に取り込まれている。

ガスさん

「『再生』というテーマは、日々繰り返されるサイクルの中で生まれてくるもの、周りから得られるものを大事にしたい、という思いからきています。周りのもの、周りの人の感覚を取り入れて自分の体を一回通すことで新しい形で生まれ変わる、自分の中で回っているような感覚です。表現方法は全然違いますが、僕は彼女と一緒にいることでいい意味で変化・変容して、制作に滲み出てくるものが増えているように感じていて、タムロバに住んでからそれをより感じるようになりました」。そのようなテーマにたどり着いたのは、絵の技術ばかり追求していた過去があったからだという。
 
「子どもの頃から好きで絵を描いていましたが、絵を描くこと以外に得意だと自信をもって言えるものがなく、『すごいね』と褒めてもらいたい承認欲求がかなりの原動力でした。さらに絵を極めようと藝大に進学しましたが、当時は自分以外は全員敵だと見做して、周りや仲間を皆下に見ているような人間でした。得意だから描いているけど描きたいものがずっと見えず、10代〜20代前半はだんだん苦しくなっていきました。
 
一度当時の環境を離れて周りを見てみると、自分以外のものってある意味ぜんぶ先生だな、いろんな人の作品を見てみたいしいろんな人と話してみたいと思えたんです。他愛もないこと、触れるものすべてが美しく見えてきて、要はお腹が減っていたんでしょうね、満腹になりたくて」
 
そこから再生という言葉に出会い、イメージの中に出てきた架空の生物「ノドム」のことを追い求めるようになったというガスさん。違うジャンルの友人たちと話したりコラボレーションしたりする中で、自分との向き合い方を見つけていったという。

意識せずに筆を走らせ出会った言葉をそのままタイトルにしたというガスさんの作品。左から《オレンジの髪の女》《カエル男》《夕暮れの家族》

9月には、同じGM2ビル2️階の「アートスタジオ アイムヒア」で個展を予定している。同スペース運営者の一人である現代美術家の渡辺篤さんと話す中で得られたもの、“空気”を作品に落とし込みたいと思ったそうだ。
 
「僕らが人とのつながりを大事にすべきコミュニティビルダーという立場だからこそいろいろ話してくださったんだと思うんですが、その中で渡辺さんから『利他的』という言葉をもらったんです。ただ人のためにというだけではなく、ちゃんと真っ直ぐ向き合うことで自然と返ってくるものがあって、その連続で今自分はここにいるよ、という話で、それがすごく心に入ってきたんですね。自分を見るためにも、他者やすぐ近くにいる人の見つめ方がすごく大切なんだなと思ったんです」

あふれるアウトプットの “ノリ”でイベントだらけの初年

タムロバに来て最初の年は、それぞれの創作活動だけではなく、メンバーとのイベントも連日のようにあった。「普通だと自分から探しに行かないとないけど、人が集まると『あれやりたい、これやりたい』と何かが始まって」(ふじまゆさん)。屋上ヨガやアフリカの浴衣を使ったファッションショー、子どもが自由に出入りして自習できる「こどもコワーキング」など、自分たちだけで楽しむものも、外部の人たちを巻き込んだものも含めて、とにかく「イベントの数が半端なかった」そうだ。
 
「何かを外に出したいという空気、ノリが自然に生まれて、連鎖的に続いていったのがすごく面白いと思いました。そういう人が集まったんだなと」(ガスさん)

ライブペイントパフォーマンス時に梅さんが撮影した写真と、記憶の中に存在している誰かわからない人をクレヨンで描き既出の《mirror》の元になったというふじまゆさんの作品《who...》

ふじまゆさんは、写真のモデル・被写体としても活動している。昨年はガスさんがふじまゆさんの体にアクリル絵の具を塗りつけるライブペイントパフォーマンスを行い、タムロバ2期メンバーの梅さんがその様子を写真に収めた。写真は入居者が自分の表現を追求する年に一回の「ゼロフェス」で展示した。
 
「色を塗られてみたいという願望があって、撮影してみない?と軽いノリでやることになりました。お互いのことを意識せずにその時間を共有できて、撮り終わって我に返ったときの満足感、やりきった感がすごく心地よかったんです」(ふじまゆさん)

空間の工夫でコミュニケーションスタイルが変化

2年目に入り、コミュニティビルダーとしてもう1年住んでみないかとのYADOKARIからの誘いを受けてみた2人。「皆を引っ張っていけているという感覚ではない」とガスさんは言うが、ちょっとしたコミュニケーションの気遣いで、今期ならではの居心地の良さをつくろうとしている。

今期メンバーの加入を祝って黒板に描かれた似顔絵

「前任のコミュニティビルダーさんは、住人同士であれやりたいねと話していると、すぐ『いいじゃん』と言ってくれて、じゃあこうしようと形にしてくれたり、協力者を呼んでくれたり。イベント化するのがすごくうまかったんです。
 
今はだんだん『コミュニティビルダーは居場所づくりをする人』みたいな認識になりました。一歩引いて皆がどういう状況なのかを見て、疲れてそうだな、悩んでそうだなと思ったらさりげなく会話のきっかけをつくったり、元気付けてみたり。より一人ひとりを見られるようになってきて、気づくことの難しさも感じながら、皆と向き合うことによって自分のことも知る機会になっています」(ふじまゆさん)

イベントで使ったゴザを取り入れ、以前と打って変わって茶の間のようになったアジト

空間の使い方の少しの違いで、共有部で過ごす時間が増え、いろんなところで会話が生まれるようにもなったという。
 
「空間づくりが皆うまいので、隠れ家みたいなところをつくったり、廊下に椅子を増やしたりして。特に帰りが遅い子もいるんですけど、夜0時以降に偶然皆が集合して会話が生まれることもあります。改めて集合しなくても、廊下ですれ違ったときに『これお願いできない?』みたいな話ができるので気持ち的にも楽ですね」(ふじまゆさん)
 
「その辺りが去年と違うところですね。僕らも物が多いので、アジトやベランダも使ってみようとか、屋上も活用しようとか、使えるものはできる限り使うように1年かけてなってきたんです。共有部に誰かしらがいる時間が増えて、まったく会えないようなことがなくなりました。話し合うきっかけやタイミングはできるだけつくる努力をしている感じですね」(ガスさん)

入居前、「人生のうちのたった1年ではあるけど、せっかくなら充実した1年にしてみたい」と話し合ったという2人。「1年しかないからこそちゃんと向き合わないといけない。試行錯誤してみたり、真剣に会話を重ねたり、思いっきり悩むのもあり。己とちゃんとぶつかりたい」(ふじまゆさん)。2年目、そして2人だからこそのコミュニティから今期はどんなものが生まれていくのか、楽しみにしたい。

PROFILE

藤井麻結[ふじい・まゆ]
群馬県出身。高校、専門とグラフィックデザインを学び、
現在はフリーランスでデジタルデザイン(グラフィックデザイン / イラスト / 映像 )を行う。
創作活動では、FJMYの名でアクリルを使った作品や、デジタルでイラストを制作している。
仕事と制作を両立させるべく、2023年5月よりニューヤンキーノタムロバに住み始める。
住人として1年住んだのち、今度はコミュニティビルダーとしてさらに1年住むことを決心。

飯島大地[いいじま・たいち]
山梨県出身。東京藝大に進学し、油画を中心に学び、
現在は再生家という肩書きのもと、廃材を使って絵画を制作して
アート活動を行う。
『生まれて死んで、また生まれる』というコンセプトで個展、グループ展に参加し、表現を追求している。
nodomというアーテスト名で活動していたが心機一転『飯島大地』で再スタートする。
一度はシェアハウスを経験してみようと言うことで2023年5月よりニューヤンキーノタムロバに住み始める。
2024年よりコミュニティビルダーとしてさらに一年住むことに。

取材・文:齊藤真菜
写真:大野隆介

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アーツコミッション・ヨコハマ(以下ACY)の助成を受け、3部作《ENCORE》の2作目《ENCORE II - Violet》制作に向けたリサーチを行った。小松川事件、関東大震災、朝鮮人虐殺。植民地主義がもたらした暴力と個人の痛みを回復するルートを探して、ユニさんは横浜で数々の手がかりに出会っていく。