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GM2ビル
入居者ファイル #46
チェコさん(ニューヤンキーノタムロバ・コミュニティビルダー)

ニューヤンキーノタムロバは、入居者のクリエイティビティの最大化を目指す、一年間限定のシェアハウスだ。その入居の集大成は「ゼロフェス」で発表される。昨年度に入居した1期生がゼロフェスを終えて今年3月に退去した。そんな痕跡が残る中、2期生が4月から暮らし始めている。取材時点で、2期生は7人。さまざまなクリエイティブで自分の表現を追求する人たちが集まった。
 
その中で、チェコさんは「タムロバの顔」ともいえるコミュニティビルダー。コミュニティビルダーは入居者のクリエイティビティを手助けする仕掛け人だ。その活動について聞いた。
 

クリエイターをつなぐオールラウンダー

「チェコさんを一言で表すなら?」
 
前置きなしの質問を投げかけると、こう答えてくれた。
 
「『何者なの?』って問われることが多いから、とりあえず『オールラウンダー』って答えます。仕事でもプライベートでも気になったことはなんでもやってきたので、要素が多すぎて一言で言えない」
 
チェコさんは「私はなんでもとりあえずやってみる」と言う。イラストレーションや立体作品の制作ができて、陶芸教室の講師をしていたこともあった。料理もタムロバの入居者に振る舞う。働き方の柔軟さもあり、「縛られずに自由に生きてきた」とチェコさんは話す。
 
タムロバを知ったのは、2022年の夏ごろ。不動産物件を紹介するYouTubeチャンネルの動画だった。タムロバの内装に惹かれた。
 
「ひらけた共有部とデザイン性のある内装をすごく気に入った。コンセプトは後から知ったんですけど、クリエイターが好きだから面白そうだなって思いました」
 
チェコさんは広告業界でディレクターとして働いた経験を活かして、2023年から音楽分野の企業で働いている会社員。働く時間や住む場所は自由に決められたため、日本中を旅しながら働いてきた。1期生が暮らしていた当時から、タムロバに内見を兼ねて2回ほど訪れ、2期生として入居すると決めていたそうだ。

インタビュー中の様子。場所は入居者が共有で使うリビングダイニング

寮母さん

募集要項によると、コミュニティビルダーは一年間の家賃が無償になる代わりに、タムロバ共用部の清掃管理、イベント企画サポート、タムロバの情報発信・広報など幅広い業務を担う。コミュニティビルダーになるためには、志望動機を提出して初代コミュニティビルダーらとの面接を突破しなければならない。
 
「自分は人を頼るのが苦手でひとりでなんでもやってしまうので、誰かを頼って、ひとりでは創れないなにかを一緒に創りたい。そのために、人との交流を避けられないポジションに自分を追い込みました」
 
チェコさんにとって、コミュニティビルダーは「寮母さん」だそうだ。
 
「理想は、私がなにも言わなくても自然とみんながクリエイティビティを発揮すること。だから最初は『私はなにもしないから』とよく伝えていました。『制作の環境を整えるために掃除をするだけの寮母さん』と言い張っていました」

アトリエと呼ばれる一帯は作品だらけ。右にあるオレンジのカボチャはチェコさんがつくったもので、裏側がカレンダーになっている

チェコさんはその志望動機通り、知り合いのクリエイターを呼んでワークショップをするなどタムロバ外部の人を招くイベントを開催してきた。その中で、入居者の才能が発揮できそうであれば声をかけた。イベントに音楽が必要なら音楽を通してアウトプットをしている入居者を頼るというふうに、その人に合った場所をつくるようにしたと言う。
 
7月から8月にかけては「こどもコワーキング」というプロジェクトを行った。夏休み期間中、子どもたちがタムロバで勉強したり遊んだりする場を設けるというものだ。
 
「子どもを対象にしたアトリエ教室を開きたいと言う住人がいたので、まずは子どもが出入りできる環境をつくるために、夏休みにタムロバを解放することにしました。ビラをつくって近所にポスティングしたり、商店街で子どもに『おいで!』って手渡したりして」

こどもコワーキングのビラ。イラストレーションは入居者が担当している

「ひとりでなんでもできてしまう」からこそ、「人と関わって、みんなでなにかをやりたい」と思っていた。当初の目的を達成している手応えを感じている。

次の「ゼロフェス」に向けて始動中!

タムロバの入居者はどんな人たちかと問うと「もう、個性的すぎ」とチェコさんは笑った。
 
「本当にバラバラです。でもまとまりがある。それぞれ芯をもっているけど、優しさがある。相手を尊重しつつ、自分のやりたいことや主張をもっている」
 
昨年より入居者の人数が少ないがゆえに関係を密接に築けているそうだ。「ちゃんと仲間って感じがする」とチェコさんは言う。
 
タムロバでの一年間の成果を発表する「ゼロフェス」の企画も始動中だ。

展示の構成を考えるために、みんなでつくったタムロバの建築模型

写真の模型は建築設計事務所で働いている知り合いを講師として招いて、タムロバの入居者とともに泊まりがけでつくった。展示の構成や配置を考えるためにつくりはじめたが、全員のこだわりが詰まったミニチュアのようになった。これもゼロフェスで展示する予定だ。
 
次回のゼロフェスのタイトルは「││」。2本の棒を縦に並べたようなこのタイトルは2期生の「2」や二面性の「二」など多義的な解釈が可能だ。開催日程は2024年2月24日(土)、25日(日)と決まった。
 
「2本の棒をクロスさせたら『×』になって『コラボレーション』の意味合いにもなるとか、それぞれの解釈が出てきました。発音やフライヤーでの見せ方が難しいけれど、それはそれでおもしろいです」
 
「2期生のおもしろさは、入居者たちのクリエイティブへのこだわりの強さ」とチェコさんは言う。好奇心も旺盛で、一緒になって大きなものを創れる。屋内は作品だらけだが、その雑然さがいい。12月以降は、ゼロフェスに向けて外部向けのイベントを控えて内部で制作に集中していく予定だ。
 
この一年間をいつか振り返るなら「濃くて、怒涛だったと思うかも」とチェコさんは言う。怒涛の一年が終わってしまうまで、あともう少し。

PROFILE

チェコ
「クリエイターをつなぐオールラウンダー」
クリエイティブディレクターとして飲食、美容、アパレル、商業施設、メーカー、専門商社、自治体など幅広い分野のブランディングに携わり、企画、取材、制作、運用、分析まですべてをこなす。
趣味で得たスキルや広告業で学んだクリエイティビティを活かして、クリエイター同士のつながりや、クリエイターと社会とのつながりをつくるために活動している、仲介人。

取材・文:中尾江利(voids)
写真:大野隆介(*をのぞく)

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